過去4~6週間程度のイギリス全国世論調査からの洞察:Reform UK支持率の急上昇とナイジェル・ファラージ氏の台頭
英国の政治情勢は、次期総選挙を控え、特に右派ポピュリスト政党であるReform UK(リフォームUK)の支持率急上昇と、その党首に復帰したナイジェル・ファラージ氏の動向によって、大きな変動を見せています。本稿では、過去4~6週間程度の全国世論調査のトレンド、SNSやオンライン上での議論、主要な争点と各党の立場、そして世論調査の信頼性について分析します。
最新の世論調査トレンド:Reform UK支持率の急上昇
ここ数週間の英国における全国世論調査の推移を見ると、Reform UKの支持率が顕著に上昇し、伝統的な主要政党である保守党を猛追、あるいは一部調査では追い抜くという現象が発生しています。2024年4月中旬から5月下旬にかけてのデータでは、保守党の支持率が約24%から約17%へと急落する一方で、Reform UKは約22%から30%超へと急伸しました。労働党は約25%前後で横ばいまたは微減、自由民主党はわずかに上昇傾向を示しています。特に2024年5月初旬以降、保守党の支持層の一部がReform UKへ流れたことが明確に見て取れます。
実際に、2024年5月上旬のSurvation社による調査では、保守党18%、Reform UK 30%という結果が出ており、この頃から「保守党が第三党に転落する可能性」が指摘されていました。 1 5月下旬から6月初旬にかけての各種調査ではこの傾向がさらに顕著になり、例えばYouGov社による6月初旬の調査では、労働党22%、Reform UK 28%、保守党18%、自由民主党17%という支持率が報告されています。一部の調査ではReform UKが30%台前半に達し、第1党に躍り出るケースも見られました。 2 3 2025年5月には、YouGov社の調査で「Reform UK 29%、労働党22%、自由民主党17%、保守党16%」と、保守党が主要政党の中で4位に転落するという衝撃的な結果も出ています。
Reform UKの支持率急伸のタイミングは、ナイジェル・ファラージ(Nigel Farage)氏の政界復帰と大きく関連しています。ファラージ氏(元UKIP党首、ブレグジット党党首)は2021年に一度政界を退いていましたが、2024年6月3日付でReform UKの党首に電撃的に復帰しました。 4 このニュース直後からReform UKへの注目が一気に高まり、党員数も1週間で50%増の4万5千人に急増したと報じられています。ファラージ氏は強力な発信力で知られるポピュリスト(大衆の支持を得ようとする政治姿勢・思想を持つ政治家)であり、その再登板が保守党支持層を強く引き付けたと見られています。
世論調査のクロス分析からも、Reform UKの支持者層は主に「元保守党支持層」であることが浮き彫りになっています。2024年7月の総選挙後の調査では、「2024年の保守党投票者の24%が現在ではReform UKを支持している」とされ、さらに「2024年保守党支持者の43%は保守党とReform UKの合併に賛成」というデータもあります。 5 これらからも、従来保守党を支えてきた右派層やEU離脱強硬派などが大量にReform UKへ流出している実態がうかがえます。また、これまで政治参加率が低かった層や若年層にも、ファラージ氏の人気が一部届いています。従来、若年層は労働党や緑の党の支持が多い傾向でしたが、2024年6月のYouGov調査では18歳から24歳の11%がReform UK支持を表明し、同世代の保守党支持(5%)を上回りました。 6 もっとも、Reform UK支持者全体としては高齢層が多く、主力支持層はEU離脱を熱望した中高年の白人労働者層と分析されています。 7 8
ファラージ氏とReform UKの支持率上昇は、2024年総選挙の投票動向にも明確に表れました。Reform UKは同選挙で得票率14.3%を獲得して第3党となり、初めて庶民院(イギリス議会の下院)に5議席を得ました。この得票率は2019年総選挙時のブレグジット党(2.0%)から大幅に増加しており、ファラージ氏の影響力の大きさがうかがえます。さらに総選挙後もその勢いは衰えず、労働党政権発足後に野党第1党となる保守党を世論調査で逆転する「クロスオーバー現象」が現実のものとなりました。2025年2月のYouGov調査ではReform UKが25%で単独首位、労働党24%、保守党21%となり、史上初めてReform UKが主要政党を抑えてトップに立っています(ただし、この差は誤差の範囲内とされています)。その後も2025年春にかけてReform UK優位の傾向が続き、一時は他党に大差をつけて首位(約30%)に達しました。
この支持率急伸の背景には、移民・難民問題への強硬な姿勢や、反エリート・反EU的な訴えが特定の層に強く響いたことが挙げられます。他方で、Reform UKの急伸は保守党の分裂を招き、右派票が分散した結果、労働党が有利になるという側面もありました。ファラージ氏の現象は英国の政党システムを揺るがす構造変化となっており、今後の動向が注目されます。
SNS・オンライン上の動向:Reform UKとファラージ氏の話題量・世論
ソーシャルメディア上でも、Reform UKとナイジェル・ファラージ氏は大きな存在感を示しています。特にX(旧Twitter)、Facebook、TikTokといった主要なプラットフォームでの言及数やエンゲージメント(ユーザーの反応)を見ると、2024年以降その存在感が急上昇していることが分かります。
X(旧Twitter)上の言及動向については、ラフバラー大学の選挙報道分析によると、2024年の選挙キャンペーン初週の報道量でファラージ氏はスナク首相(保守党)やスターマー党首(労働党)に次ぐ第3位につけ、特にReform UKに関するニュースは「好意的」な評価が「否定的」な評価を上回った唯一の政党だったとされています。 9 また、右派系メディアによるReform UKの拡散も顕著でした。Byline Timesの調査では、保守系ニュース専門局GB Newsの公式アカウントが1か月間にReform UKやファラージ氏について投稿した回数は572回(1日約19回)に上り、これは同期間の他の全メディアによるReform関連投稿の合計(438回)を単独で上回ったといいます。 10 これに対し、自由民主党に関する投稿は全メディア合計でわずか46回に留まり、Reform UKへの注目度がSNS上で桁違いに高かったことがうかがえます。言及の内容面では、右派メディアが好意的に取り上げ支持を煽る一方、左派・中道系ユーザーからは批判的な投稿も多く、SNS上の世論は二極化しました。しかし結果的に、ファラージ氏の名前が頻繁にトレンド入りし、露出が増えることで彼の主張がより広範に拡散する効果を生んでいます。
TikTok上でのファラージ氏の存在感は特に注目に値します。意外にもTikTokで若者を引きつけ、英国政界で最も「バズっている」人物の一人となっています。2024年総選挙のキャンペーン中、ファラージ氏個人のTikTokアカウントに投稿された動画は、他のどの政党公式アカウントや候補者よりも平均エンゲージメント(いいね・コメント・シェア)と視聴数が高かったことがThe Guardian紙の分析で明らかになっています。ファラージ氏は戦略的に若年層男子向けのポッドキャストに出演したり、有名ラッパーの曲に合わせて口パクする短い動画を投稿したりするなど、意外性のあるコンテンツで話題を呼びました。その結果、選挙期間中からTikTokのフォロワー数を爆発的に増やし、2024年の選挙時点で全候補者中最多のフォロワーを持つ政治家となりました。 11 さらにThe Guardian紙の解析では、2024年総選挙以降、TikTok上でReform UKの投稿1件あたりのエンゲージメントは労働党・保守党・自由民主党の実に14倍に達しており、デジタル空間での同党の勢いは従来政党を圧倒しています。
Facebook上では、支持者コミュニティが過激化する様相も指摘されています。Byline Timesの調査によれば、Reform UK支持者が集うFacebookグループでは、反イスラムの陰謀論や暴力的な移民排斥を求める投稿が頻出し、2024年夏に英国で発生した難民施設周辺での暴動を称賛・扇動するような投稿さえ見られました。 12 党が公式にこうした過激思想を表明しているわけではありませんが、SNS時代にはこのような草の根の過激層がオンライン世論を牽引し、党勢を下支えする側面があり、無視できません。
総じて、SNS・オンライン上でのReform UKとファラージ氏は「高い話題量と二極化した評価」が特徴です。支持者からは熱狂的に拡散・賞賛される一方で、反対派からは批判や風刺の対象にもなっています。しかし結果として露出が極大化し、既存政党を凌ぐオンラインでの存在感を示しています。ファラージ氏自身、「炎上も宣伝のうち」とばかりに挑発的な発言や演出を繰り返し、そのたびにオンラインニュースやSNSでトレンド入りする状況です。こうしたデジタル時代のポピュリズム戦略が、同氏の台頭を支える重要な要因と言えるでしょう。
主な争点と政党ポジション:移民・経済・NHSなど
次期総選挙に向けて有権者が重視する争点を見てみると、最優先課題は「生活費・景気対策」である一方、Reform UK支持層では断トツで「移民問題」が最重視されている点が特徴的です。
YouGov社の最新世論調査(2024年6月)では、有権者全体で「最も投票行動に影響する争点」として、1位「生活費高騰(物価対策)」(45%)、2位「国民医療サービス(NHS)」(34%)、3位「経済全般」(32%)、4位「移民・亡命」(26%)という順位でした。 13 コロナ禍やエネルギー価格高騰を経て、物価や生活コストへの関心が依然として最も高く、次いで医療制度、経済全般と続いています。一方で、Brexit(ブレグジット:イギリスの欧州連合離脱)問題は8%と上位には入らず、2019年の総選挙が「Brexit選挙」だったのに対し、2024年にはもはや主要な争点ではないと分析されています。
しかし、この全体的な傾向とReform UK支持者の関心事には大きな隔たりがあります。YouGov社によれば、Reform UK支持層の82%が「移民・亡命」を投票先決定のトップ級の争点に挙げており(単一選択でも68%が「最重要争点」と回答)、生活費問題はわずか34%に留まります。これは他の政党支持層と比較しても突出しており、現政権(当時の保守党政権)の移民政策への不満が、Reform UK台頭の原動力になったと言えます。実際、政府の移民政策のパフォーマンスについては、英国民の84%が「うまくいっていない」と評価しており、そうした怒りの受け皿としてファラージ氏が支持を集めました。
Reform UKは公約で移民政策の抜本的な強化(不法移民の即時送還や年間受け入れ数の大幅削減など)を掲げ、またEU離脱の「完全履行」として欧州人権条約からの離脱さえ示唆しました。これらの強硬な姿勢に対し、他の政党は概ね反対または慎重であり、Reform UKの「移民問題一辺倒」とも言える訴えが支持拡大に直結している構図です。加えて同党は、「脱炭素(ネットゼロ)政策の一時停止」、「小さな政府」、「増税反対」など、経済的には右派自由主義(規制緩和と減税を重視する立場)の路線を打ち出しています。これもまた伝統的な保守党の右派層に訴えかける内容であり、現実路線に舵を切ったスナク政権に不満を持つ層を引き付けました。
また、NHS(National Health Service:国民保健サービス)や公共サービスへのスタンスも各党で異なります。労働党はNHSの再建や公共部門の賃上げを主要公約に掲げ、生活費問題でも「労働者支援」や「エネルギー価格統制」などを訴えました。これに対しReform UKは、NHS改革では民間活力の活用や効率化を主張し、生活費対策でもグリーン課税の停止や消費減税など、保守党右派に近い政策を掲げています。環境政策では、緑の党や労働党が2050年のネットゼロ(温室効果ガス排出実質ゼロ)達成を支持する中、Reform UKは「ネットゼロは産業と雇用を犠牲にする」として一時停止を主張しました。
こうした争点認識の差は、各党の支持拡大戦略に直結しています。Ipsos社の2025年5月の調査でも、「移民政策で『適切な対応ができる』と最も信頼されている政党はReform UK(37%)」であり、与党・労働党や旧与党・保守党(いずれも25%前後)を上回りました。 14 同様に「ドーバー海峡横断の不法移民対策が信頼できる政党」、「違法入国を困難にできる政党」でもReform UKがトップとなり、従来強硬策を唱えていた保守党が最下位に転落しています。ファラージ氏個人も「移民問題に最も信頼できる党首」と評価されており、これらの世論データは争点設定と支持率の連動を物語っています。
要するに、現在の英国政治において、有権者全体の関心は生活費・経済・医療に集中しつつも、Reform UKは移民問題や文化的なアイデンティティに関する争点に注力することで支持を拡大しているという構図です。その戦略は現状では功を奏していますが、逆に言えば経済政策や医療・福祉といった分野で明確な支持拡大策を欠いているとも言えます。
世論調査の信頼性評価と読み解きのポイント
最後に、これらの世論調査結果を読み解く上での信頼性と留意点を整理します。まず、各種世論調査は手法(オンラインパネル調査、電話調査、対面調査など)によって結果に若干の差異が出ることがあります。一般的にサンプル数1,000人程度で誤差は±3ポイント前後と言われ、各党支持率の数ポイント差は統計的には有意でない場合もあります。したがって、単一の世論調査結果に一喜一憂するのではなく、複数の調査の傾向や平均値(いわゆる「ポール・オブ・ポールズ」)に注目することが大切です。
また、英国の主要な調査機関はほぼ全て英国世論調査協議会(BPC:British Polling Council)の加盟社であり、調査方法や設問文、元データの開示などについて統一されたルールに従っています。 15 これにより、恣意的な世論操作を防ぎ、透明性と精度の担保に努めています。もっとも、調査会社ごとに回答の重み付け(過去の投票行動や人口動態に基づく調整)や投票率予測モデルが異なり、それが結果の差を生むことがあります。例えば、直近の選挙では各社とも「保守党支持をやや過小評価し、労働党支持を過大評価した」傾向が指摘されました。 16 誤差の一因として、「直前の保守党からReform UKへの支持の移行を十分に捕捉できなかった」ことや、回答率の偏り(与党支持者の「サイレント化」など)が挙げられています。さらに、近年注目されているMRP方式(Multi-level Regression and Post-stratification:大規模なサンプルと統計モデルを用いて選挙区ごとの勝敗を予測する手法)も、2024年の選挙では労働党の議席数を過大に予測するケースがあり、万能ではないことが示されました。
こうした点を踏まえ、本レポートで引用した各種データも「傾向の把握」に重点を置いています。最新の各社調査を総合すれば、Reform UKが上昇トレンドにあることは間違いなく、複数の調査会社で類似の傾向が確認できるため、その信憑性は高いと判断できます。しかし、具体的な支持率の数値は調査方法や時期によって変動し得るものです。世論調査の結果はあくまで「ある一定時点での有権者の意向のスナップショット」であり、特に英国では小選挙区制が採用されているため、全国の得票率がそのまま議席数に結びつかない点にも留意が必要です。今後の世論調査の結果も、単発の数字に振り回されることなく、中長期的なトレンドや統計的に有意な差異に着目しつつ吟味することが重要です。
参考文献:引用文献
- 最新の投票意向と党首支持率の世論調査 (markpack.org.uk)
- 選挙2024:リフォームUKは世論調査で保守党を追い抜くだろう、とイプソス社長が予測 (City A.M.)
- 保守党、主要世論調査で4位に転落し壊滅的状況に (The Independent)
- リフォームUK – Wikipedia (en.wikipedia.org)
- ナイジェル・ファラージ氏、新調査で労働党を追い抜く (POLITICO Europe)
- ナイジェル・ファラージ氏、TikTokで他の全英国政党・候補者を上回るパフォーマンス (The Guardian)
- キア・スターマー氏のリフォームUKへの攻撃は裏目に出る可能性も (The Guardian)
- ナイジェル・ファラージ氏のリフォームUK、労働党・保守党が後退する中、世論調査で過去最高を記録 (Evening Standard)
- 2024年総選挙メディア分析 – レポート1 (Loughborough University)
- メディアとマスク氏はいかにしてナイジェル・ファラージ氏のリフォームUKをその規模以上に押し上げているか (Byline Times)
- ナイジェル・ファラージ氏はTikTokで人気だが、若者は聞いているのか、笑っているのか? (The Guardian)
- リフォームUKのFacebookグループ、極右感情と暴動支持が蔓延 (Byline Times)
- 総選挙2024:有権者にとって最も重要な争点は何か? (YouGov)
- リフォームUKとファラージ氏が移民問題で最も信頼され、労働党と保守党への信頼は低下 (Ipsos)
- 2024年英国総選挙の世論調査 – Wikipedia (en.wikipedia.org)
- 2024年アーカイブ – 英国世論調査協議会 (British Polling Council)
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