世界の主要報道機関が報じた社会問題・人権・法制度の注目ニュース(直近1週間)
ガザの全住民が飢饉の「重大なリスク」に直面
概要
パレスチナ自治区ガザで、約210万人の全住民が深刻な飢餓 (ききん)のリスクに直面していることが、国連が支援する最新の報告書で明らかになりました。 1 この報告書 (5月12日付) によると、昨年10月に始まった戦闘で状況は悪化し、一時は停戦により改善が見られたものの、3月初旬に停戦が崩壊して以降イスラエル軍がガザへの人道支援物資搬入を再度遮断したため、状況が逆戻りしました。 2 現在ガザでは約24万4千人が「壊滅的な」レベルの食料不足に陥っており、飢饉発生を防ぐため緊急対策が求められています。 3
解説
ガザ地区ではイスラエルとイスラム組織ハマスの武力紛争が続き、市民への物資封鎖による人道危機が深刻化しています。 2 国連のグテーレス事務総長はガザの状況について「人道を超えている (beyond inhumane)」と表現し、国際社会に強い懸念を示しました。 4 飢餓の危機に瀕するほどの封鎖は国際人道法の観点からも問題視されており、民間人への集団的な懲罰にも等しい措置だとして批判されています。 2 報告書は基本的な食料供給すら途絶えた現状を指摘し、人道的支援の即時再開と紛争当事者による市民保護の責任を訴えています。 2
英国で38年間服役した男性がDNA再鑑定で無罪に
概要
英国の控訴院 (高等法院)は5月13日、1980年代に発生した殺人事件で有罪となり約38年間服役していた男性の有罪判決を破棄し、無罪としました。 5 ピーター・サリヴァン氏 (68) は21歳だった1986年、英北部マージーサイドで女性を殺害した罪で終身刑に服していました。 5 しかし、事件直後の証拠として保管されていた加害者の体液試料を最新のDNA技術で再鑑定したところ、サリヴァン氏とは別の第三者のDNA型が検出され、再審請求委員会(CCRC) が控訴院に再審を付託していました。 5 裁判所の決定を受け、サリヴァン氏は即日釈放されました。 5
解説
38年もの長期にわたる冤罪 (無実の罪による服役)は英国の司法史上でも最長クラスとみられ、司法制度に大きな衝撃を与えています。 7 今回の無罪判決は、古い事件でも新たな科学的証拠によって冤罪が正せることを示しました。 7 社会的には、長年自由を奪われた本人と家族の苦しみに対する救済がようやく実現した形であり、同時に当時の捜査・裁判の問題点 (証拠の扱いや自白偏重など)が改めて問われています。 8 司法当局には、再審請求制度の充実や証拠保全の徹底など、冤罪防止と是正のための改革を求める声が高まっています。 8
インド海軍がロヒンギャ難民を海上に放置か、国連専門家が調査
概要
インド当局が拘束していたミャンマー出身のロヒンギャ難民数十人を船でミャンマー近海まで連行し、救命胴衣だけを着けさせて海上に放置したとの疑惑が明らかになりました。 9 国連人権高等弁務官事務所は5月中旬、「40人以上のロヒンギャ難民がインド海軍によって海上へ追放された」とする声明を発表し、その中には子供や高齢者も含まれていたと伝えています。 10 難民たちは泳いでミャンマー側の海岸に辿り着いたものの、その後の行方は不明で、家族らがインド最高裁に救出を求める嘆願書を提出しています。 11 12 現在、国連のトム・アンドリューズ特別報告者がインド政府に事実関係の説明を求めるなど、調査に乗り出しています。 13
解説
事実であれば、難民を公海上に放逐する行為は極めて深刻な人権侵害であり、国際法上の難民保護原則であるノン・ルフールマン (送還禁止) に違反します。 14 国連特別報告者のアンドリューズ氏は「これは生命と安全への明白な無視であり、非道徳的かつ到底容認できない」と強く非難し、インド政府に難民の安全確保と説明責任を求めました。 14 ロヒンギャ難民は「世界で最も迫害された少数民族」とも称され、多くが迫害から逃れ周辺国に避難しています。 14 しかしインドは難民条約に未加盟で国内法も整備されておらず、こうした人権侵害が起きた背景には同国の難民保護制度の不備や、難民に対する厳しい姿勢があると指摘されています。 15 16 国際社会からは真相究明と再発防止、そして難民の適切な受け入れ対応を求める声が上がっています。 16
ペルーで表現の自由とトランスジェンダーの権利を脅かす新法が成立
概要
南米ペルーで5月12日、子どもへの性的虐待防止を目的に掲げた新たな法律が成立しました。 17 しかし人権団体によれば、この法律は真の目的とは裏腹に表現の自由とトランスジェンダーの権利を侵害する内容を含んでいます。 17 新法はメディアや教育現場における「性的描写」を禁止する条項を含みますが、用語の定義があいまいなため当局による恣意的な検閲につながる恐れがあります。 17 18 さらに公共のトイレについて「生物学的な性別」での利用を義務づけ、トランスジェンダーの人々 (特に若年層)が自認する性別に沿ったトイレを使用できないよう規定しています。 18
解説
人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ (HRW) は「この法律は子どもの保護を口実に検閲と差別を正当化するものだ」と強く批判しています。 19 社会的・法的観点から見て本法律の問題点は次の通りです。
- 表現と言論の萎縮: 新法は「性的描写」や「性的対象化」を禁止していますが定義が広範で不明確なため、芸術作品や教育教材、個人の自己表現にまで適用される懸念があります。 17 恣意的な解釈による検閲が横行すれば、性教育など子どもの健全な発達に必要な情報まで遮断されかねません。 20
- トランスジェンダー差別の制度化: 公共施設の利用を出生時の性別に限定する規定は、トランスジェンダーの人々を排除し差別を助長するものです。 18 こうした措置は「子どもの保護」の名目で導入されていますが、トランスジェンダーの若者をスケープゴート (身代わり) にしており、当事者たちへの偏見や暴力リスクを高めると指摘されています。 19
このように新法には重大な人権上の懸念があり、実際ペルー国内のLGBTQ+コミュニティや表現の自由を擁護する団体が抗議の声を上げています。 19 ペルーでは近年、政治的混乱の中で保守的な勢力が台頭し、人権・ジェンダー分野の後退が懸念されています。 19 本件は「子どもの性的搾取防止」という誰もが反対しにくい大義名分の下で、少数者の権利と基本的自由が損なわれる典型例といえ、国際社会からも注目が集まっています。 19
米ニューアーク市長が移民収容施設抗議で逮捕、後に釈放
概要
アメリカ・ニュージャージー州ニューアーク市のラス・バラカ市長が5月9日、移民(不法移民)収容施設での抗議活動中に当局に逮捕されました。 21 バラカ市長はICE (移民税関捜査局)が運営する収容施設「デレイニー・ホール」への立ち入りを試み、退出命令に従わなかったため不法侵入の疑いで拘束されたと、担当の連邦検事代理が発表しています。 22 市長は身柄を拘束されましたが数時間後に釈放され、現時点で起訴されるかどうかは不明です。 21 当日は州選出の連邦下院議員3人も市長と同行しており、議員らは逮捕を免れました。 23
解説
現職市長が移民収容所への抗議で逮捕されるという異例の事態は、米国社会での移民政策への緊張と表現の自由(抗議の権利) のせめぎ合いを象徴しています。 21 ニューアーク市長は市内の収容施設で拘束されている移民の処遇に抗議する目的で行動したとみられますが、連邦当局は法執行を優先し逮捕に踏み切りました。 21 背景には、連邦レベルで強硬な移民取締りを支持する勢力と、人道的見地から移民支援を訴える地方行政との対立があります。 21 バラカ市長は黒人で民主党所属、逮捕を発表した検事代理はトランプ前大統領の元顧問弁護士という政治的構図もあり、今回の件は法の適用をめぐる政治的思惑も含め注目されています。 24 この事件は移民収容施設の問題 (劣悪な環境や長期収容への批判) にスポットを当てるきっかけともなり、移民の人権と司法の公正さについての議論を喚起しています。 24
コメント