政治・外交

韓国検察、旧統一教会・韓鶴子総裁に出国禁止措置か

韓国検察、旧統一教会・韓鶴子総裁に出国禁止措置か ― 尹前大統領夫妻への贈答品疑惑が背景

2025年5月、旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)のトップである韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁に対し、韓国の検察当局が出国禁止措置を講じたと報じられ、韓国内外に衝撃が広がっています。この措置は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領夫妻を巡る贈収賄疑惑の捜査に関連しているとみられ、今後の展開が注目されます。本記事では、この問題の背景や経緯、関係者の反応、そして今後の見通しについて詳しく解説します。

0. 概要

2025年5月、韓国の検察当局が旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の最高指導者である韓鶴子総裁(82歳)に対し、出国禁止措置を取ったことが報じられ、大きな注目を集めています。この措置の背景には、尹錫悦前大統領夫妻への贈収賄疑惑があるとみられています。

旧統一教会は1954年、文鮮明氏によって韓国で創設されました。強い反共思想を持ち、冷戦時代には韓国政府と密接な関係を築いていました。しかし、日本では長年、霊感商法や高額献金問題が批判されてきました。特に2022年の安倍元首相銃撃事件をきっかけに社会的批判が強まり、日本政府が2023年に解散命令を請求し、2025年3月に裁判所が法人格の解散を命じています。

今回の措置の直接的な原因となったのは、尹錫悦前大統領夫人である金建希氏が旧統一教会関係者から高級ブランド品を受け取ったとされる問題です。検察は、これらの贈答品が教団資金から購入された可能性があることや、その見返りとして教団が自身の事業に関する不正な便宜供与を求めていた疑いを持ち、捜査を進めています。また、この件には韓鶴子総裁本人が直接関与または指示した可能性もあり、検察は近く韓総裁から事情を聴く方針です。

この問題は韓国内で政治的・社会的に大きな波紋を呼んでいます。野党や市民団体は、尹政権の倫理問題として厳しく追及しています。一方、教団側は組織的な関与を全面的に否定していますが、トップへの出国禁止措置により、組織全体の活動にも深刻な影響が及ぶことは避けられません。日本でもこの問題は大きく報道されており、今後の日韓両国における影響が注目されています。

1. 旧統一教会と韓鶴子総裁について

旧統一教会は、1954年に文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が韓国で創設した新興宗教団体です。 1 1960年代には日本へも進出し、その後世界各国へと布教活動を拡大しました。 1 教団は創始者である文鮮明氏の強固な反共産主義思想のもと、冷戦期には韓国の歴代政権と密接な関係を築き、政治団体「国際勝共連合」を通じて反共運動を展開するなど、一定の政治的影響力を持っていたとされています。 2 しかし、1980年代以降、韓国社会が民主化へと移行する中でその影響力は徐々に後退し、主流のキリスト教諸派が保守勢力の中心を占める現在の韓国社会においては、旧統一教会は少数派の異端的な宗教団体として認識されることが一般的です。 3 4 日本で長年問題視されてきた霊感商法や高額な献金要求といった問題は、韓国ではこれまで大きく報道されてこなかったとの指摘もあります。 5

創始者の文鮮明氏は2012年に逝去し、その後は妻である韓鶴子総裁が教団の最高指導者として、その活動を率いています。韓総裁は、信者からは文氏と共に「真の父母」として崇敬されるカリスマ的な存在であり 7、文氏の亡き後は教団の事実上の単独最高指導者とされています。彼女は教団内で「真のお母様」とも称され、14人の子女と共に文氏の宗教的遺産を継承しているとされます。教団は近年、その名称を「世界平和統一家庭連合」(Family Federation for World Peace and Unification, FFWPU) と改めていますが、特に日本では依然として旧名称の「統一教会」として広く報道されています。

旧統一教会(FFWPU)は、世界各国に関連団体や多数の事業を有し、国際的な平和イベントや大規模な「祝福」と呼ばれる合同結婚式(特に二世信者のものが知られています)などで国際的に知られています。一方で、日本では長年にわたり、政治家との不透明な関係や、高額な献金の強要(いわゆる霊感商法)が深刻な社会問題として認識されており、信者や元信者からは多額の献金被害を訴える訴訟も多数起きています。特に、2022年に発生した安倍晋三元首相銃撃事件を契機として、教団と政界(特に自民党)との長年にわたる癒着の実態や、深刻な献金被害の問題が改めてクローズアップされました。この事件の影響は大きく、2023年以降には元信者約200人が総額57億円にも上る損害賠償を求めて集団提訴する事態にまで発展しました。日本政府は、教団による長年の組織的な違法行為を理由に、2023年10月、旧統一教会に対する解散命令を東京地方裁判所に請求し、2025年3月には東京地裁が教団の法人格解散を命じる歴史的な決定を下しています(ただし、教団側はこの決定を不服として即時抗告し、争う姿勢を示しています)。 9

2. 韓鶴子総裁への出国禁止措置の事実関係

2025年5月、韓国で旧統一教会のトップである韓鶴子総裁(当時82歳)に対し、検察当局が出国禁止措置を講じたことが明らかになりました。 10 5月22日付の複数の韓国メディア報道によれば、ソウル南部地方検察庁で関連疑惑を捜査中の検察が「最近になって韓総裁に対し出国禁止措置を取った」とされています。 11 これは法曹関係者の話として伝えられた情報であり、韓国検察当局からの正式な発表は現時点ではありませんが、聯合ニュースなどの主要メディアが相次いで報じていることから、確度の高い事実と見られています。 10 11

出国禁止措置が取られた具体的な日時は公表されていませんが、一部報道によれば、5月13日頃に韓総裁が自家用機でアメリカへ渡航しようとした際にこの措置の存在が発覚し、搭乗が急遽取り止められたと伝えられています。 12 実際、韓国KBSの取材班は、5月13日に旧統一教会関係者とみられる人物が金浦空港で出国を試みたものの、何らかの理由で自主的に搭乗を取りやめた事実を確認していると報じています。 12 旧統一教会内部の消息筋によれば、同日午前に韓総裁が京畿道加平(カピョン)にある教団の主要施設「清心平和ワールドセンター(天正宮)」を出発し、アメリカ行きのチャーター機に搭乗する予定だったものの、直前になって自身に出国禁止措置が取られていることを知り、渡航を断念せざるを得なかったとの証言もあるとされています。 12

一方で、教団側はこれらの報道に対し、「韓総裁は空港へは行っておらず、その日は病院に行っていた」と、出国を試みたこと自体を公式には否定しています。 13 しかし、教団関係者の中には「最近になって韓総裁が出国しようとした際、事前に知らされていなかった出国禁止措置のために出国できなかったことがあったのは事実だ」と明かす者もいると報じられており 14、少なくとも検察による何らかの出国制限が、韓総裁の海外渡航を阻止した可能性は極めて高いと見られています。

検察が韓総裁に出国禁止措置を科した法的な根拠としては、現在進行中の捜査に関連して、彼女を参考人(事情聴取の対象者)として韓国内に確保しておく必要があるとの判断に基づくと考えられます。韓国の法律では、捜査対象者が海外へ逃亡する恐れがある場合や、将来的に被疑者として立件される可能性がある場合に、検察が法務部の出入国管理当局に要請し、一時的に出国を禁止する措置を取ることが認められています。今回、韓総裁は現時点では「参考人」という扱いですが、検察は「今後の捜査の進展次第では、被疑者(容疑者)に切り替える可能性も排除していない」と報じられています。 11 これは、捜査の結果によっては韓総裁自身が何らかの容疑で刑事訴追される可能性を示唆しており、そのために韓総裁をいつでも召喚し取り調べができるよう、出国を禁じる保全措置を講じたものと解釈できます。 11 実際、検察は「近く韓総裁を参考人として召喚し、事情聴取を行う案を検討中である」とも伝えられており 15、今回の出国禁止措置はその前段階の重要な一手と位置付けられます。

なお、今回の出国禁止措置と関連して、問題となっている贈答品を実際に受け取ったとされる大統領室の元秘書官(当時、金建希〈キム・ゴンヒ〉夫人付き秘書)であるユ・某氏も、同様に出国禁止措置を受けたことが報じられています。 16 ユ氏は後述する疑惑において、シャネル製の高級バッグなどを受け取ったとされる人物であり、検察は彼女からも事情を聴取するとともに、贈答品が渡された経緯やその後の流れについて詳しく調べている模様です。

3. 措置に至った背景・経緯

(1) 金建希(キム・ゴンヒ)前大統領夫人への高級贈答品・不正請託疑惑

韓鶴子総裁に対する今回の出国禁止措置の直接的な背景には、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領夫妻、特に金建希(キム・ゴンヒ)夫人を巡る一連の疑惑が存在すると見られています。 17 具体的には、金建希夫人が、旧統一教会の元幹部とされる人物から高額な贈り物(高級ブランドのネックレスやバッグなど)を受け取り、その見返りとして、教団が関わる事業に関して何らかの便宜供与を依頼されたのではないか、という贈収賄にも繋がりかねない重大な疑惑です。 18

この疑惑は、2022年の尹政権発足当初から一部で囁かれていましたが、本格的に表面化し、メディアで大きく取り上げられるようになったのは、2023年末から2024年にかけてのこととみられています。 19 尹錫悦政権は保守政権でありながら、大統領選挙の過程で「無謬(むみょう)の占い師」や「シャーマン」といった人物の選挙運動への関与が報じられるなど、金建希夫人の周辺を含め、「秘線(ピソン)」と呼ばれる非公式なルートや人脈の存在が何度か取り沙汰されてきました。中でも、「建晋法師(コンジンポプサ)」(俗名:全〈チョン〉某氏)と呼ばれる男性は、尹大統領の選挙キャンペーン中に非公式の「ネットワーク本部」の顧問として活動していたことが発覚し、問題視された人物です。 19 この全氏は当時65歳で、自らを「僧侶」あるいは霊能者的な存在としてアピールしており、2022年1月にその選挙運動への関与が明らかになると、選挙対策本部から急遽外されるという騒動がありました。 19 しかし、その後も尹大統領夫妻との個人的な親交を背景に、政権周辺の様々な利権に関与していたのではないかとの疑惑が燻り続け、2024年頃から検察が全氏の周辺を対象とした内偵・捜査を進めていたと伝えられています。 19

今回、検察の捜査線上に浮上し、韓総裁への出国禁止措置にまで発展した直接的な疑惑は、2022年に旧統一教会の元世界本部長であったとされる男性・Y氏(姓は「尹」と報じられており、以下「元幹部尹氏」とします)が、前述の全氏(建晋法師)に接近し、「大統領夫人(金建希氏)への贈り物」と称して、極めて高額な宝飾品などを渡していたとされる一件です。 20 報道によれば、元幹部尹氏は2022年当時、教団内で「ナンバー2」とも称されるほどの有力な幹部であり 21、その年のうちに全氏に対し、「金建希女史に渡してほしい」として、時価6,000万ウォン(日本円で約620万円)相当とされる高級ダイヤモンドネックレス1点と、フランスの高級ブランドであるシャネル製のバッグ2点を手渡したとされています。 20 全氏は、これらの贈答品を直接金建希氏本人に届けたのではなく、金氏付きの女性秘書であったユ・某元秘書官を仲介して渡したと報じられています。 22 さらに、このユ元秘書官は、受け取ったシャネルのバッグを一旦預かった後、後日シャネルのブティックに自身が追金をする形で、別の商品に交換したことも確認されているということです。 23 交換された商品の具体的な詳細は不明ですが、検察はこれらの贈答品の購入資金が、旧統一教会の資金(信者からの献金など)から支出された可能性も視野に入れ、シャネルの韓国法人を家宅捜索して購入履歴を詳細に調べるなど、捜査を進めました。 22 その結果、元幹部尹氏が、自身の妻の妹(義理の妹)の名義を使用して、2022年の4月と7月頃にシャネル製のバッグを少なくとも2点購入していた事実が判明したと伝えられています。 24

では、旧統一教会側がなぜこれほど高額な贈答品を大統領夫人に届けようとしたのか――その動機として検察当局が強く疑っているのは、元幹部尹氏が、教団が抱える様々な懸案事項について、尹大統領夫妻に「便宜を図ってもらう」よう依頼する目的があったのではないか、という点です。 20 具体的には、元幹部尹氏は上記の贈答品をいわば「手土産」として、教団関連の以下のような複数の要望(不正な請託)を伝えようとした疑いが浮上しています。 25

  • カンボジア・メコン川開発事業への韓国政府による政府開発援助(ODA)支援の要請 25
  • 韓国の有力なニュース専門チャンネルである「YTN」の買収計画に対する支援の要請 25
  • 国連第5事務局(第5の国連本部)の韓国国内への誘致活動に対する協力の要請 25
  • 2022年5月に行われた尹大統領の就任式への、教団関係者の招待枠確保の要請 25
  • その他、教団が現在進めている事業に関する複数の要望(報道によれば、全部で5項目に及ぶとされています) 26

検察は、元幹部尹氏がこうした複数の具体的な陳情内容をリスト化し、それを全氏(建晋法師)を介して、尹大統領や金夫人側に伝達しようとしたとみて、その詳しい経緯や内容について捜査を進めている模様です。 25 特に、尹氏が提出したとされる要望の中には、政府開発援助や公共事業への教団の関与、さらには大統領就任式という国家的な行事にまで影響を及ぼそうとするものが含まれており、これらは韓国の公職者倫理や請託禁止に関する法に抵触する可能性が極めて高いとされています。

この一連の行為は、韓国の「不正請託及び金品等の授受の禁止に関する法律」(通称「請託禁止法」または、法案を最初に提案した人物の名を取って「金英蘭法〈キム・ヨンナンポプ〉」とも呼ばれます)に抵触する疑いが持たれています。 27 この請託禁止法は、公職者やその配偶者に対する一定金額(通常、1回100万ウォン、年間300万ウォン)を超える金品などの贈与や、不当な依頼行為(不正な請託)を厳しく禁じたものであり、仮に大統領夫人である金建希氏が高額な贈答品を受け取り、その見返りとして教団からの依頼を聞き入れていたとすれば、贈与側・依頼側である旧統一教会の関係者が、同法違反(不正請託および金品供与)の罪に問われる可能性があります。 27 検察は現在、元幹部尹氏および全氏(建晋法師)を、この請託禁止法違反の容疑で本格的に捜査中であり 27、その捜査の過程で、教団の最高指導者である韓鶴子総裁の関与が浮上したため、前述した出国禁止という強硬な措置に踏み切ったものと見られています。

(2) 韓鶴子総裁の関与疑惑と安倍元首相銃撃事件以降の国際的な流れ

韓国検察が特に注目しているのは、上記の金建希夫人への贈答品提供や不正な請託といった一連のスキームが、旧統一教会のトップである韓鶴子総裁の直接的な指示、あるいは少なくとも黙認の下で行われたのではないか、という可能性です。 28 実際に、捜査の対象となっている元幹部尹氏は、検察の取り調べに対し、「これは全て韓総裁の意思(お許し)に従って進めたことである」という趣旨の供述をしていると一部で報じられています。 29 元幹部尹氏は、2025年2月に行われた別の事件に関する裁判(ソウル西部地方裁判所)において、「自分はこれまで『韓鶴子総裁の息子のような役割』を担ってきた」「宗教的な信念から、自分自身の家族の世話をすることよりも、韓総裁にお仕えすることを最優先にしてきた」などと証言しており 6、教団内部において韓総裁に対し絶対的な服従を誓う立場にあったことが窺えます。こうした背景から、検察は「贈られた品物の金額の大きさや、依頼された請託内容の重要性に照らし合わせれば、元幹部尹氏が単独で判断し実行したとは考えにくく、韓総裁の指示または少なくとも黙認の下で、このような贈答と請託を行った可能性が高い」と疑いを強めていると伝えられています。 21 30

さらに、教団内部からは、より具体的な韓総裁の関与を示唆する証言も出てきていると報じられています。2022年に尹政権が発足した直後、金建希夫人が初めての海外訪問を行った際に起きたとされる「6000万ウォン超の高級ネックレス貸与疑惑」(金氏が海外訪問の際に、他人から極めて高価な宝飾品を借り受けて着用したのではないかとされた件)を韓総裁が伝え聞き、「一国のファーストレディが、他人の物を借りて身に着けるとは何事か。一つ買って差し上げなさい」と指示した、という証言も取り沙汰されています。 31 この証言が事実であれば、それは実質的に、問題となっているダイヤモンドネックレスを教団の資金で購入し、金建希夫人に贈るよう指示したことを意味しており、今回検察が重大な疑惑として捜査しているシナリオと完全に符合します。教団の広報担当者は公式には「そのような話は一切承知していない」とこの証言内容を否定していますが 32、検察はこの「ファーストレディへの贈答指示」を裏付ける可能性のある教団内部の証言の有無や信憑性についても、慎重に捜査を進めている模様です。

こうした韓国国内での旧統一教会に対する厳しい捜査の背景には、先述した日本における旧統一教会問題の社会的な激震が少なからず影響しているとの見方もあります。2022年7月に発生した安倍晋三元首相銃撃事件は、その犯行動機が旧統一教会に対する個人的な恨み(犯人の母親が教団に多額の献金を行い家庭が破綻したことへの報復とされています)であったことから、日本社会に計り知れない衝撃を与えました。 33 この事件以降、日本では、旧統一教会と政治家(特に長年政権を担ってきた与党・自由民主党)との間の、数十年にわたる不透明な癒着関係が次々と暴露され、現職の閣僚が辞任に追い込まれるなど、大規模な政治スキャンダルへと発展しました。また、高額献金などによる被害者救済を求める世論が急速に高まり、前述のように日本政府による教団への法人解散命令請求や、被害者たちによる大規模な集団訴訟など、教団の法的責任を追及する動きが次々と講じられています。 8 9

日本でのこうした一連の動きを受け、韓国のメディアも改めて旧統一教会の実態や韓国内での活動に関心を寄せ始め、これまであまり光が当てられてこなかった韓国国内の教団と政界・財界との関係についても、監視の目が向けられるようになりました。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領自身も、過去に旧統一教会の関連団体が主催するイベントに祝電を送ったり、あるいは直接出席したりした経験のある政治家の一人であるとの指摘が、一部の野党議員などからなされています。また、尹政権の中枢にいた閣僚経験者の中にも、就任前に教団関連の行事に参加していた人物がいることが報じられています。 34 こうした状況下で新たに飛び出したのが、今回の金建希夫人と旧統一教会、そして“建晋法師”との不透明な関係に関する疑惑でした。野党や一部メディアは、これを「韓国版の旧統一教会スキャンダル」であると位置づけ、尹政権に対する批判を強めています。例えば、最大野党である「共に民主党」の関係者は、「日本で明らかになった旧統一教会との深刻な癒着問題が、韓国の政権中枢でも起きていた可能性が極めて高い。尹政権は疑惑の真相を徹底的に明らかにすべきだ」といった趣旨のコメントを発表しており(※具体的な発言内容は今後の報道で確認が必要です)、尹大統領周辺の不透明な人脈に対する追及の材料として、この問題が今後さらに大きくなる可能性も指摘されています。

4. 韓国内外での反応

今回の韓鶴子総裁に対する出国禁止措置と、それに至る一連の旧統一教会および尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領夫人を巡る疑惑は、韓国内で大きな注目を集めています。韓国の主要メディア各社は連日詳細な情報を伝え、テレビのニュース番組でもトップ項目として扱われるなど、国民的な関心事となっています。特に、大統領夫人が特定の宗教団体から高級ブランド品などの贈与を受けていた可能性は、重大な倫理問題として捉えられており、野党や市民団体からは「徹底した真相究明を求める」との声が日増しに高まっています。

韓国の野党勢力は、以前から尹政権に対し「秘線(ピソン、非公式なルートや人物)による国政介入」問題を厳しく追及しており、いわゆる「無謬(むみょう)の占い師」や「建晋法師」といった、大統領夫妻との個人的な繋がりが疑われる“シャーマン人脈”の存在を批判してきました。今回の旧統一教会を巡る事件は、こうした野党側の主張に一定の説得力を与える格好となっており、今後の政局にも影響を与える可能性があります。「共に民主党」の議員らは、「大統領夫妻と旧統一教会の不適切な関係が事実であれば、それは国政の私物化に他ならない」と強く非難し、国会での関連質問や特別検察官の導入なども視野に、徹底追及を行う構えを見せています(※具体的な発言内容や対応については、今後の報道で詳細が明らかになる見込みです)。また、一部の進歩系メディアの論調も非常に手厳しく、「日本で社会問題化した旧統一教会の問題が、決して他人事ではなかったことが証明された」「国の最高指導者の周辺に、新興宗教の教祖や易者的な存在が影響力を行使していたとすれば、それは国家的な恥辱である」といった厳しい論評を展開していると見られています(ハンギョレ新聞や京郷新聞などのコラム記事が、こうした論調に該当すると推測されます)。

一方、旧統一教会側は、これら一連の疑惑を全面的に否定しています。教団は、「元幹部尹氏の行動は、あくまで個人の私的な動機によるものであり、教団本部とは一切関係がない」との公式見解を発表し、組織としての関与を強く否定しました。 35 また、韓総裁に対する出国禁止措置についても、「そのような措置が取られているとは全く知らなかった」とコメントし、韓総裁自身も「まさに寝耳に水だ」として困惑していると伝えられています。 14 さらに、前述した韓総裁の出国未遂疑惑に対して、教団の広報担当者は「韓総裁はその日、病院に行っただけであり、空港には行っていない」と強く反論し、韓総裁があたかも海外へ逃亡しようとしたかのような見方を明確に否定しました。 36 ただ、韓国の検察当局が教団のトップである韓総裁に直接捜査のメスを入れ始めたことで、「教団の上層部全体へと捜査の矛先が向けられる可能性が高まっている」との指摘が専門家などからなされています。 35 韓国の世論の中には、「日本では旧統一教会の解散命令にまで至った。この機会に、韓国国内でも教団の実態を徹底的に解明すべきだ」との声も上がっており、教団側に対する社会的な逆風はますます強まっている状況です。

国際的にも、このニュースは大きな注目を集めています。特に日本では、安倍元首相銃撃事件以降、旧統一教会の問題が連日大きく報じられてきた経緯もあり、今回の韓国での動きはその延長線上にある重要な出来事として、大々的に報道されました。TBSや毎日新聞といった日本の主要メディアは、「韓国検察が旧統一教会の韓鶴子総裁を出国禁止措置にした」と速報し 37、日本の旧統一教会被害者対策弁護団なども「教団の最高責任者に捜査の手が及ぶのは当然であり、歓迎する」といった趣旨のコメントを発表しています(※具体的な被害者団体のコメントは、今後の報道で確認が必要です)。日本のメディアや専門家の論調としては、「韓国当局も、日本での一連の動きを受けて、ようやく重い腰を上げたのではないか」「日韓両国で、教団に対する法的な措置が同時進行していることは注目に値する」といった、一定の評価をする声がある一方で、「韓国社会では、これまで旧統一教会の問題に対する関心が日本ほど高くはなかったが、今回、大統領夫人を巡るスキャンダルに発展したことで、さすがに無視できなくなったのではないか」といった、やや冷静な分析も見られます。 38 4 実際、前述の通り、韓国社会において旧統一教会は比較的マイナーな存在と認識されていたため、今回の事件が、教団の活動実態や政界との関係について、韓国で初めて本格的に大きく取り上げられたと言っても過言ではないでしょう。 39

他国の反応として、旧統一教会と歴史的に関係が深いとされる米国の保守系団体や政治家などからの公式なコメントは、現時点では確認されていません。ただし、旧統一教会の関連国際団体(例えば、天宙平和連合=UPFなど)は、これまでも各国の政府による教団への介入や規制の動きに対し、「信教の自由の侵害である」といった主張を盾に、強く反発する姿勢を見せてきました。そのため、もし韓総裁に対する出国禁止措置が長期化したり、あるいは起訴・有罪といった事態に至るような場合には、国際的な支持者ネットワークを通じて、何らかの抗議声明や反論キャンペーンが行われる可能性は否定できません。

5. 今後の見通し

捜査の今後の行方ですが、韓国検察は、韓鶴子総裁本人や関連するとみられる教団幹部らを正式に召喚し、事情聴取を行うものと見られています。既に検察内部では、「韓総裁を近く参考人として呼び出し、直接調査を行う案を検討している」と報じられており 15、集められた証拠の状況や供述内容によっては、韓総裁の法的な立場が現在の「参考人」から「被疑者」へと切り替わる可能性も十分に指摘されています。 11 この捜査の鍵を握るのは、疑惑の中心人物である元幹部尹氏や、仲介役とされる全氏(建晋法師)らから得られる証言と、それを裏付ける客観的な物証でしょう。もし彼らの供述に一貫性があり、さらに韓総裁の具体的な指示や関与を裏付けるような内部文書、録音データ、あるいは関係者の証言などが新たに出てくれば、韓総裁に対する本格的な立件(起訴)の可能性も現実味を帯びてきます。その場合、適用される可能性のある容疑としては、前述の「不正請託及び金品等の授受の禁止に関する法律」(請託禁止法)違反の共同正犯、あるいは教唆犯などが考えられます。ただし、韓総裁が高齢(82歳)であることなどを考慮すると、検察がどこまで直接的な刑事責任を問うことができるかという点には、一定のハードルがあることも事実です。しかし、検察当局は「捜査に聖域はない」との基本姿勢を強調しており、必要と判断すれば教団の最高指導部に対する捜査も辞さない構えであると伝えられています。

一方、この疑惑が大統領夫人である金建希氏自身にどこまで波及するのかにも、国民の大きな注目が集まっています。韓国の請託禁止法は、公職者本人だけでなく、その配偶者も適用対象となり得るため、仮に金氏が教団側から高級バッグなどの不正な贈与を受け取っていた事実が客観的に立証されれば、贈与した側だけでなく、受け取った金氏側にも何らかの法的・倫理的な責任が問われる可能性があります。ただし、同法では、公職者側が金品などを受け取った場合に、速やかに所属機関の長に報告し、提供者に返還するなどの適切な処置を取れば、直ちに処罰対象とはならないケースも定められています。また、金氏本人は公職者ではなく「大統領の配偶者」という立場であるため、現行法上、直接的な処罰規定の適用は限定的であるとの専門家の見方もあります。それでもなお、大統領夫人の周辺に対する本格的な捜査が及ぶような事態になれば、政権に対する国民の信頼が大きく揺らぎ、深刻な打撃となることは避けられないでしょう。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、この一連の疑惑について現時点では沈黙を保っていますが、捜査の進展次第では、何らかの形で国民に対する説明責任を求められる場面が出てくるものと予想されます。

旧統一教会(FFWPU)そのものへの影響も極めて深刻です。韓鶴子総裁は、教団の絶対的な求心力を持つ頂点の存在であり、その人物が刑事捜査の対象となったという事実は、教団の内部および外部に対して大きな動揺を広げています。韓総裁はこれまで、毎年世界各地を精力的に飛び回り、大規模な教団行事を主宰してきましたが、出国禁止措置により、少なくとも当面の間は海外への渡航が不可能となりました。これにより、既に予定されていた国際的な集会やイベントへの出席が困難になるなど、教団の国際的な活動にも大きな支障が出る可能性があります。教団は2024年に創立70周年を迎え、各種の記念行事を計画していたとも伝えられていますが、その進行にも影響が及ぶことは避けられないでしょう。信者にとって「真のお母様」として絶対的な存在である韓総裁に対する捜査は、大きな精神的試練であり、動揺した一部の信者が教団から離反するのではないかとの懸念も指摘されています(※実際に、日本では安倍元首相銃撃事件以降の教団関連スキャンダル報道が相次いだ後、信徒の離脱が進んだと報じられています)。

さらに、日本における旧統一教会の法人解散命令や巨額の損害賠償訴訟と、韓国における今回の最高指導者への刑事捜査が同時進行していることで、旧統一教会は国際的にもその存立基盤を揺るがす重大な危機に直面していると言えます。日本での解散命令が最終的に確定すれば、日本国内の教団支部の財産は国庫に帰属するか、あるいは清算法人の管理下に置かれることになり、教団の主要な資金源の一つに壊滅的な打撃が加えられることになります。韓国の教団本部としても、日本からの献金が途絶えることは大きな痛手であり、財政面での抜本的な再建が迫られることになるでしょう。今回の韓総裁に対する捜査は、直接的には韓国国内の政治スキャンダルに起因するものですが、結果として教団トップの刑事責任が追及されるような事態になれば、国際的な宗教団体としての権威失墜は避けられません。教団内部では、韓総裁の後継者問題(文鮮明氏の複数の子息たちによる教団の主導権を巡る争い)も以前から水面下で存在しており、仮に韓総裁が訴追されたり、あるいは健康上の理由などで指導力を発揮できなくなったりするような場合には、これまで抑えられてきた内部の権力闘争が再燃する可能性も否定できません。

最後に、今後の政治的な焦点として、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権への影響も挙げられます。韓国の政治史においては、過去にも大統領の親族や側近による不正やスキャンダルが次々と明るみに出て、政権が大きな打撃を受けた例が枚挙にいとまがありません。尹大統領は、2022年の就任当初、「法治主義の確立」と「公正な社会の実現」をスローガンとして強く掲げていました。それだけに、もし大統領夫人である金建希氏が、特定の宗教団体と不透明な関係を持ち、その見返りとして何らかの便宜供与を受けていたという疑惑が事実となれば、大統領が掲げた公約との整合性が厳しく問われ、政権支持率のさらなる低下は避けられないでしょう。現時点では、尹大統領本人の直接的な関与は取り沙汰されていませんが、検察の捜査の進展によっては、大統領自身の政治的責任論にまで発展する可能性も皆無ではありません。韓国では2024年春に次期総選挙(国会議員選挙)を控えており、野党勢力はこの問題を政権攻撃の最大の材料として最大限に利用し、徹底追及していく構えです。尹政権としては、検察の捜査に影響を与えないという姿勢を強調しつつも、必要と判断されれば、関係者の更迭や国民への謝罪といった形で、早期の事態収拾(火消し)を図るシナリオも考えられます。

以上のように、韓国検察による韓鶴子総裁への出国禁止措置は、旧統一教会および韓国政界に大きな波紋を広げています。これは、日本の安倍元首相銃撃事件後に日本国内で露呈した旧統一教会の様々な問題が、国境を越えて、教団発祥の地である韓国にも飛び火したことを象徴する出来事と言えるでしょう。今後の捜査の進捗と、日韓両国における旧統一教会に対する法的手続きの行方に、引き続き国際的な注目が集まります。

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