2025年6月12日(木)現地時間午後1時39分ごろ、インド西部グジャラート州アーメダバードの空港を離陸したロンドン行きのエア・インディア171便が、離陸からわずか数分後に市街地へ墜落しました。この事故は、最新鋭旅客機の一つであるボーイング787-8型機で初めての死亡事故となり、世界に大きな衝撃を与えています。本稿では、事故の経緯、被害状況、各国の反応、そして今後の調査の見通しについて、最新情報を基に詳しく解説します。
事故の経緯と概要
事故を起こしたのは、インドのアーメダバードにあるサルダル・ヴァッラブバーイー・パテール国際空港から、ロンドンのガトウィック空港へ向かっていたエア・インディア171便です。機材は2014年に製造されたボーイング787-8「ドリームライナー」で、エンジンは米GE(ゼネラル・エレクトリック)社製でした。 1
同機は離陸から約5分後、空港南側の市街地に墜落したと伝えられています。 2 墜落現場は、空港近くにある医科大学の学生寮で、昼休みの時間帯と重なったため、機体は建物の食堂部分に直撃しました。 3 この事故は、ボーイング787型機が2011年に商業運航を開始して以来、初めての死亡事故となり、その安全神話が揺らぐ事態となっています。
甚大な被害状況
事故機には、乗客230名(うち子供11名、乳幼児2名)と乗員12名の計242名が搭乗していました。 4 エア・インディアの発表によると、乗客にはインド国籍169名のほか、英国籍53名、ポルトガル籍7名、カナダ籍1名が含まれていました。警察当局によれば、これまでに少なくとも204人の遺体が現場から収容されており、乗客・乗員の大半が死亡したとみられています。 5
墜落現場となった学生寮でも多数の学生や職員が被災し、負傷者は少なくとも50名にのぼっています。 6 また、インド政府は、グジャラート州の元首相であるビジャイ・ルーパニ氏がこの便に搭乗しており、犠牲になったことを明らかにしました。
当初、生存者はいないとの見方も示されていましたが、その後の捜索で、乗客の男性1名の生存が確認されました。ラメーシュ・ヴィシュワシュクマルさん(40歳)と判明しており、彼は奇跡的に助かったものの、一緒に搭乗していた弟の安否は分かっていません。 7
生存者と目撃者の生々しい証言
奇跡的に生還したヴィシュワシュクマルさんは、「離陸からわずか30秒後に大きな音を聞き、その直後に機体が墜落した」と証言しています。「あっという間の出来事で、気がつくと周りは遺体と機体の破片だらけだった」と、当時の凄惨な状況を語りました。
また、空港近隣の住民が撮影した事故直前の映像も複数確認されています。そこには、住宅街の上空を異常な低さで降下するように見える機体と、その直後の爆発音、そして大きな火の玉が記録されていました。現場では機体が激しく炎上し、尾翼が建物に突き刺さった状態で停止していたと報じられています。 8
墜落原因に関する初期分析と調査状況
事故原因は現在調査中ですが、離陸直後にパイロットから「メーデー(緊急事態宣言)」のコールがあったことが明らかになっています。 9
専門家は、事故直前の映像に映る機体の降着装置(ランディングギア)が、離陸直後にもかかわらず下りたままだった点に注目しています。 10 これは、離陸直後に何らかの異常が発生し、空港に引き返そうとしていた可能性を示唆するものです。
インドの航空当局は、事故調査委員会を立ち上げ、ボーイング社やエンジンメーカーのGEエアロスペース社と連携して原因究明にあたっています。米国の国家運輸安全委員会(NTSB)も調査団を派遣し、主導的に支援すると発表しました。 11 今後は、回収されたフライトデータレコーダー(FDR)やコックピットボイスレコーダー(CVR)の解析が焦点となります。
現時点で原因は断定されていませんが、突発的な技術的故障の可能性が指摘されています。ニューヨーク・タイムズ紙は2024年4月、ボーイング社の内部告発者が787型機の構造的な欠陥を指摘し、FAA(米連邦航空局)が調査中であったと報じています。 12 今回の事故との関連性についても、慎重な調査が進められるものとみられます。
各国政府・関係機関の対応
- インド政府
- モディ首相の指示の下、政府を挙げて救助・医療支援にあたっています。モディ首相はX(旧Twitter)で、「アーメダバードでの悲劇に言葉を失っている。胸が張り裂ける思いだ」と述べ、深い哀悼の意を表明しました。
- エア・インディアとタタ・グループ
- 親会社であるタタ・グループは、犠牲者一人あたり1,000万インドルピー(約1,170万円)の見舞金を支給し、負傷者の治療費を全額負担することを表明しました。また、墜落現場となった学生寮の再建支援も行うとしています。
- ボーイング社
- 「事故の第一報を認識しており、さらなる情報収集に努めている」とコメントを発表。インド当局への技術協力の意向を示しています。この事故を受け、同社の株価は一時8%近く下落しました。
- 国際機関・各国政府
- 米国のNTSBや英国の航空事故調査局(AAIB)が専門家を派遣する意向です。英国のスターマー首相やチャールズ国王、米国のルビオ国務長官、カナダのカーニー首相など、世界各国の首脳から相次いで哀悼のメッセージが寄せられています。 13
今後の見通しと航空業界への影響
今回の事故は、インド国内および国際的な航空業界に大きな影響を与えることが予想されます。最新鋭機の一つであるボーイング787型機で初めての死亡事故となったことで、同型機の安全性に対する包括的な点検が行われる可能性があります。
ボーイング社にとっては、2018年と2019年に起きた737MAX型機の連続墜落事故以降、信頼回復に努めてきた中での大惨事となり、再び厳しい局面に立たされています。航空業界最大のイベントであるパリ航空ショーの直前に発生したこともあり、商談などへの影響も懸念されます。
また、エア・インディアにとっても大きな試練となります。2022年に民営化され、再建と拡大の途上にあった同社ですが、今回の事故で安全管理体制が厳しく問われることになります。ブランドイメージへの打撃は避けられないでしょう。
現在、遺体の身元確認や負傷者の治療が懸命に続けられています。事故原因の究明には数ヶ月以上を要する可能性がありますが、この悲劇から得られる教訓を基に、航空業界全体でさらなる安全性の向上に取り組むことが強く求められています。
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