政治・外交

2025年韓国次期大統領選挙の展望(5月末時点の情報)

2025年韓国次期大統領選挙の展望:混乱からの再出発、主要候補と争点

2024年末からの政局混乱を経て、韓国では2025年6月3日に次期大統領選挙の投票日が設定されました。 1 本来2027年3月頃に予定されていたこの選挙は、尹錫悦(ユン・ソンニョル)前大統領が2024年12月に「非常戒厳」を宣布したことに端を発する弾劾・罷免により、2年早い異例の早期選挙となりました。 2 本記事では、この大統領選挙の背景、主要な候補者、政策の争点、そして世論の動向について、最新情報を基に分かりやすく解説します。

第1部: 韓国大統領選挙 – 現状と今後のスケジュール

2024年12月、当時の尹錫悦大統領が突如として「非常戒厳」(国家の非常事態宣言の一種で、大統領に強大な権限が集中する措置)を宣布したことは、韓国社会に大きな衝撃を与えました。この宣布は国会によって即座に解除されましたが、大統領の行為は憲法違反であるとして弾劾訴追へと発展。2025年4月4日、憲法裁判所は弾劾を支持し、尹氏は大統領職を罷免されました。韓国の憲法では、大統領が罷免された場合、60日以内に次期大統領選挙を行わなければならないと規定されており、これにより2025年6月3日の選挙実施が決定したのです。

この一連の出来事は、韓国政治を大きな混乱に陥れました。尹氏の戒厳令宣言は、民主主義の根幹を揺るがす行為として国内外から強い批判を浴び、韓国内では大規模な抗議デモや政治的対立が激化しました。尹氏は一時的に職務停止となり、複数の大統領代行が交代で政権運営を担うという不安定な状況も続きました。与党内部でも、尹氏の辞任時期や選挙時期を巡って様々な議論がありましたが、最終的には罷免という形で決着し、通常より2年も早い日程での大統領選挙が行われることになりました。現職大統領の弾劾による早期選挙は、2017年の朴槿恵(パク・クネ)元大統領のケース以来であり、各政党は急ピッチで候補者選定と選挙準備を進めることとなりました。

第2部: 主要候補者とその特徴

2025年の韓国大統領選挙には6名の候補者が立候補していますが、特に与野党それぞれの有力候補2名と、第三極として注目される1名に焦点が当たっています。

有力候補

李在明(イ・ジェミョン)氏(共に民主党):
最大野党「共に民主党」の候補者で、元京畿道(キョンギド)知事です。2022年の大統領選挙では尹錫悦氏に僅差で敗れましたが、革新系(進歩派)の政治家として依然として高い支持を得ています。貧しい家庭出身で工場労働者から人権派弁護士になったという経歴を持ち、「労働者階級の象徴」と見なされています。彼の強みは庶民的なイメージと卓越した演説力であり、雇用拡大や社会正義の実現を訴えています。 10 一方で、過去の都市開発事業を巡る汚職疑惑などがスキャンダルとして指摘されており、保守層からは急進的すぎると警戒されています。
金文洙(キム・ムンス)氏(国民の力):
与党「国民の力」の候補者で、保守系の元京畿道知事、現在73歳です。若い頃は労働運動家として活動し、その後保守政党に転身したという異色の経歴を持ちます。 12 国会議員や京畿道知事、雇用労働部長官などを歴任しました。労組出身ながら企業寄りの政策にも理解があり、「経済のための大統領」をスローガンに、AIインフラ投資拡大や少子化対策強化などを公約に掲げています。 13 強みは実務家としてのイメージですが、高齢である点や知名度で李在明氏に劣る点が課題とされています。

第三極の注目候補

李俊錫(イ・ジュンソク)氏(改革新党):
38歳と若く、元「国民の力」党首であった彼は、若年層を中心に人気のある中道右派の政治家です。尹前大統領を公然と批判したことで与党から離党し、新党「改革新党」を結成しました。 16 既成政党からの合流者もおり、「反既得権益の第三勢力」として支持を広げています。規制改革や地方分権を掲げ、法人税や最低賃金の決定権を地方に移譲するといった斬新な政策を打ち出しています。 17

このほか、民主労働党の権英国(クォン・ヨングク)氏、無所属の黄教安(ファン・ギョアン)氏(元首相)、無所属の宋鎮鎬(ソン・ジンホ)氏も立候補しています。選挙戦は序盤から李在明氏がリードし、金文洙氏、李俊錫氏が追う構図となっています。

第3部: 政策・争点と社会の関心

今回の大統領選挙の主な争点は、尹前大統領の弾劾という政権混乱を経た後の、政治・経済の立て直しと、山積する内外の課題への対応です。

経済政策

経済の立て直しが最重要課題の一つです。尹前政権下での混乱に加え、米国トランプ政権による対韓関税強化(25%の関税賦課)の可能性が、輸出依存度の高い韓国経済に深刻な打撃を与える懸念となっています。 23 李在明氏は所得主導の成長戦略や厚い社会保障による内需拡大を主張し、先端産業への投資や不動産市場の安定化、全国民へのベーシックインカム導入などを掲げています。 25 一方、金文洙氏は「経済のための大統領」として企業活力の向上を最優先し、規制緩和や減税による投資誘致、AIなど新産業への投資環境整備を訴えています。

社会政策

世界最低水準にある合計特殊出生率(0.75)への対策は、全候補者共通の大きな課題です。 27 李在明氏は幼児教育無償化や手厚い育児手当を提唱。金文洙氏も少子化対策強化を掲げ、年金制度改革にも言及しています。教育政策では、李氏は大学無償化、金氏はエリート教育復活などを主張しています。

外交・安全保障政策

対北朝鮮政策では、李在明氏が対話による緊張緩和を重視する「太陽政策」に近い立場を取る一方、金文洙氏は対北抑止力の強化や独自の核戦力保有も視野に入れる強硬姿勢です。 28 アメリカのトランプ大統領(第2次政権)との関係構築も重要な課題です。李氏は日米韓協力を重視しつつ、中露とのバランス外交を示唆。金氏は米韓同盟の強化を明確に打ち出しています。対日関係については、歴史問題で李氏が慎重な一方、金氏は協力強化を支持する立場です。 32

国民の関心事

現在、韓国国民が最も関心を寄せているのは、物価高や景気減速への対策、そして政治の安定と民主主義の回復です。尹前政権の戒厳令騒動で「民主主義の危機」を経験した有権者は、その再発防止を強く願っています。また、若年層を中心に雇用や住宅問題への不満が根強く、各候補はIT支援や公務員改革など新しい政策も打ち出しています。

第4部: 世論と支持率の動向

尹前大統領の弾劾以降、各種世論調査では野党「共に民主党」の李在明氏が一貫して支持率でリードしています。2025年5月下旬時点の主要調査機関のデータでは、李在明氏の支持率はおおむね47~50%程度、与党「国民の力」の金文洙氏は約35~40%で追う展開、第三極の「改革新党」李俊錫氏は10%前後の支持を得ています。 36

年齢層別に見ると、李在明氏は30代~50代の中間層から圧倒的な支持を受けており、特に40代~50代では60%を超える調査結果もあります。 38 金文洙氏は70歳以上の高齢層で優位ですが、伝統的な保守地盤だった60代では李氏と接戦となっています。20代以下の若年層では「支持候補なし」が多く、残りは李在明氏、李俊錫氏、金文洙氏の順で支持が分散している状況です。 42

メディアや政治アナリストの多くは「李在明氏優勢」との見方を示しており、保守分裂状態にある金文洙候補の逆転は容易ではないとの分析が一般的です。 48 ただ、尹前政権のスキャンダルによる「政権審判」ムードが保守支持層の結束を促す可能性や、投票率、浮動票の行方によっては接戦もあり得ると指摘されています。

第5部: SNSでの反応と世論の熱量

今回の大統領選挙は、SNS上でもかつてないほどの盛り上がりを見せています。尹前大統領の弾劾を「民主主義の勝利」と歓迎し、李在明候補に期待を寄せる声が多数見られる一方、保守系コミュニティでは「弾劾は政治報復だ」と尹氏を支持する意見も根強く存在します。X(旧Twitter)上では、尹氏弾劾に反対するデモの様子が拡散され、イーロン・マスク氏が反応したことも話題となりました。 60

選挙戦が進むにつれ、SNS上ではフェイクニュースや候補者への中傷も激化。AI技術を使ったディープフェイク動画まで出回る事態となり、選挙管理委員会が対応に追われました。 62

一方で、一般市民のSNS投稿からは、政治への関心の高さもうかがえます。YouTubeの候補者討論会ライブ配信には数十万人が同時接続し、「今回は必ず投票する」「二度と独裁は許さない」といった決意や、政策を見極めようとする冷静な意見が交わされました。尹前大統領による「非常戒厳」という衝撃的な事件を経て、「二度と民主主義を踏みにじらせてはならない」という市民の覚悟が強まったとの指摘もあります。国民的な関心と熱気の中、6月3日の投開票は、韓国の政治変革への大きな期待と緊張感を帯びて迎えられます。

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