この1週間の国際紛争に関する注目ニュースまとめ(2025年5月10日~5月16日)
世界各地では様々な紛争・軍事衝突が続いています。ここでは、この1週間(2025年5月10日~5月16日)で報じられた主な国際紛争の動向を地域別にまとめ、それぞれの紛争の概要、今週の新たな展開、関係する国・勢力、そして国際社会の反応を整理します。
ウクライナとロシアの戦争
紛争の概要
2022年2月にロシアがウクライナへ侵攻して以来、ウクライナ軍とロシア軍の全面戦争が続いています。欧州で第二次世界大戦以降最悪とも言われる激しい消耗戦となり、兵士・民間人を合わせ多数の死者が出ています。 1 ウクライナ側には米国や欧州諸国が軍事支援を行い、ロシア側もイランから無人機供与を受けるなど、事実上の国際的代理戦争の様相も帯びています。
今週の動向
5月16日、トルコ・イスタンブールで約3年ぶりにウクライナとロシアの代表団による直接の和平協議が行われました。この協議では即時停戦には至らなかったものの、双方が戦争捕虜1000人ずつを交換することで合意し、開戦以来最大規模の捕虜交換が実施される見通しです。 2 協議時間は2時間足らずで、ロシア側は「成果があった」と前向きに評価しつつ、ウクライナ側はロシアの提示した停戦条件は受け入れ難い内容だとしています。 2 3 戦場では依然として各地で砲撃戦・小競り合いが続いており、本格的な停戦合意には至っていません。
関連国・勢力
この紛争はウクライナとロシアの二国間戦争ですが、北大西洋条約機構(NATO) 加盟国を中心とする米欧諸国がウクライナを支援し、ロシアもベラルーシやイランなどと連携しているため、広範な国際的影響があります。両国首脳は直接交渉の用意を示しつつも強硬な姿勢を崩さず、ウクライナのゼレンスキー大統領は領土奪還まで戦う決意を示し、ロシアのプーチン大統領も戦争の正当性を主張しています。
国際社会の反応
米国のドナルド・トランプ大統領は紛争終結に向けて仲介に乗り出しており、今回のイスタンブール協議開催にも強い影響を及ぼしました。欧米各国は引き続きロシアへの制裁を維持しつつウクライナ支援を続行する方針で、フランスやドイツなど主要国首脳は協議後もウクライナと連絡を取り合い、ロシアに対し即時停戦と軍の撤退を求めています。また国連や各国の人道支援機関は、戦闘の長期化による民間人への被害拡大を懸念し、人道回廊の設置や避難民支援を訴えています。
イスラエル・パレスチナ紛争 (ガザ戦争)の地域波及
紛争の概要
イスラエルとパレスチナの紛争は、2024年10月にパレスチナ武装組織ハマスがイスラエル領内で大規模攻撃を行ったことを契機に全面戦闘に突入しました。イスラエル軍はガザ地区への攻撃を開始し、ガザでは甚大な人的被害と人道危機が発生しました。その後数カ月にわたり戦闘が続き、ハマスをはじめとするパレスチナ側の武装勢力とイスラエル軍との間で激しい攻防が展開されています。
今週の動向
ガザでの戦闘が続く中、その影響は地域にも波及しています。中東のイエメンでは反政府武装勢力フーシ派(フーシ族の武装組織)が、パレスチナへの連帯を表明してイスラエルへの攻撃を開始しました。 4 フーシ派は今週、5月4日にイスラエルの主要都市テルアビブ近郊のベンガリオン国際空港に向けて弾道ミサイルを発射し、イスラエル側も報復として5月5日にイエメン西部のフーシ派支配地域ホデイダ港を空爆、さらに6日には首都サヌアの国際空港を戦闘機で空爆しました。 5 4 フーシ派の発表によれば、これらの戦闘で多数の死傷者が出たほか、フーシ派は「ガザに対する侵攻と封鎖が終わるまでパレスチナ支援の作戦を継続する」と宣言し、イスラエルと周辺武装勢力との対立が深刻化しています。 4 イスラエル本土とガザ地区でも依然緊張が続いており、小規模な衝突や空爆・砲撃が散発しています。
関連国・勢力
この紛争の中心はイスラエルとガザ地区を実効支配するハマスですが、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派などイランと繋がりの深い地域勢力が介入しつつあります。イスラエル軍はガザのほかレバノン南部やシリア領内の親イラン勢力拠点にも攻撃を加えており、パレスチナ側ではハマス以外にも「イスラム聖戦(イスラミック・ジハード)」など武装組織が参戦しています。イランは公には否定しつつもこうした武装勢力を支援していると見られ、米国・サウジアラビア・エジプトなども含め中東全域を巻き込んだ緊張状態となっています。
国際社会の反応
国連をはじめ国際社会はガザの人道危機を深く憂慮し、たびたび即時停戦と人道的停戦(一時的な戦闘停止) を呼びかけています。特に中東情勢の不安定化を懸念する周辺国からは外交的解決を模索する動きもあります。米国はイスラエルの自衛権を支持しつつも民間人被害の抑制を求めており、エジプトやカタールの仲介で一時的な人質解放や停戦交渉の試みも行われました。とはいえ依然として根本的な解決策は見出せておらず、この紛争が他地域に飛び火することへの警戒感が高まっています。
インド・パキスタンの軍事衝突
紛争の概要
南アジアの宿敵同士であるインドとパキスタンは、長年にわたりカシミール地方の領有権問題などを巡って対立し、過去に数度の戦争を経験しています。両国は核兵器を保有しており、国境付近では小競り合いが絶えません。直近では2021年頃から比較的平穏でしたが、先月下旬に起きたテロ事件を契機に再び緊張が高まりました。
今週の動向
4月22日、インドのカシミール地方パハルガムで武装勢力による襲撃が発生し、ヒンドゥー教徒の巡礼者ら26人が殺害されました。インド政府は「ザ・レジスタンス・フロント (TRF)」を名乗る武装集団による犯行と断定し、この組織を支援しているとしてパキスタンを非難しました。インドのモディ首相は報復を宣言し、5月7日未明にインド軍はパキスタン支配下のカシミールやパキスタン本土の標的ヘミサイル攻撃を実行しました。これに対しパキスタン側も報復し、以後4日間にわたり両国は国境を挟んで無人機攻撃やさらにミサイルの撃ち合いを行う事態に発展しました。双方の主張によれば、この衝突でインド側は軍人5名と民間人16名が死亡、パキスタン側も軍人11名と民間人40名以上を失う甚大な被害が出ています。 6 7 核保有国同士の危険なエスカレーションに国際社会も緊張しましたが、5月10日になってインドとパキスタンは停戦に合意し、一応の戦闘終結となりました。 8 9 停戦後、モディ首相は前線基地を訪問して「今後もテロ拠点への攻撃に断固として踏み切る」と演説し、パキスタン外務省は「挑発的な発言だが、こちらも侵略には断固対応する」と表明するなど、言葉の応酬も続いています。 10
関連国・勢力
この軍事衝突の当事者はインド (ヒンドゥー教徒多数の多民族国家) とパキスタン (イスラム教徒多数)という隣国同士です。直接の火種となったカシミール地方の武装勢力TRFはパキスタン情報機関の関与が指摘されていますが、パキスタン側は関与を否定しています。両国とも核戦力を背景に強硬姿勢を崩さず、インド軍・パキスタン軍が直接衝突すれば大規模戦争となる危険性を常にはらんでいます。
国際社会の反応
米国は今回のインド・パキスタン間の停戦合意に舞台裏で重要な役割を果たしました。4日間に及ぶ戦闘は約30年ぶりの激しさと評され 11、米国の圧力や仲介もあって5月10日の停戦成立に至ったとされています。 11 国連事務総長も両国に最大限の自制を求め、周辺国の中国やロシアも核戦争回避を強調しました。またパキスタン国内では停戦を歓迎する一方でインドに譲歩しすぎたとの批判も出ており、インド側でも強硬論と慎重論が交錯しています。国際社会は南アジアの安定のため、対話の継続とテロ根絶の双方を働きかけています。
スーダン内戦
紛争の概要
アフリカ北東部スーダンでは、2023年4月に軍司令官と準軍事組織「迅速支援部隊 (RSF)」の対立が武力衝突に発展し、内戦状態に陥りました。それ以来、首都ハルツームや西部ダルフール地域を中心として激しい戦闘が続き、民間人も巻き込んだ大規模な被害が出ています。国連はスーダン情勢について 「世界最悪の人道危機」が生じていると表現しており 12、これまでに数百万の住民が国内外へ避難を余儀なくされています。
今週の動向
内戦は膠着状態が続く中で各地に飛び火していますが、今週注目されたのは紅海に面した都市ポートスーダンでの戦闘拡大です。ポートスーダンは政府軍 (正規軍) 側の拠点都市で、これまで比較的平穏でしたが、5月6日、RSFが無人機(ドローン)を用いた攻撃を敢行し、同市の港湾コンテナターミナルや戦略燃料貯蔵施設が爆発・炎上する事態となりました。 13 燃料タンクや変電設備、港湾・空港インフラが被害を受けたことで物資輸送や電力供給にも支障が生じており、この攻撃は2年来続く内戦の中でも最大級の激しさだったと伝えられています。 13 14 インフラ破壊によって人道支援の停滞やエネルギー不足が深刻化する恐れがあり、既に深刻な人道危機の悪化が懸念されています。 15 その他の地域でも戦闘は散発しており、特に西部ダルフールでは住民虐殺事件も伝えられるなど予断を許さない状況です。
関連国・勢力
スーダン内戦は、事実上の国家権力を争うアブデルファタ・ブルハン将軍率いる正規軍(国軍)と、ムハンマド・ハムダン・ダガロ (通称「ヘメティ」) 中将率いるRSFとの戦いです。両者はかつて同盟関係にありましたが、権力配分を巡る対立から衝突しました。周辺国ではエジプトが国軍寄り、アラブ首長国連邦(UAE) がRSF寄りとも言われ、利害関係をもつ域外国 (サウジアラビア、米国、ロシアなど)も間接的に関与しているとされています。また西部ダルフールでは旧反政府民兵の動きも絡み、戦線は複雑です。
国際社会の反応
国連やアフリカ連合 (AU)、アラブ連盟などは度重なる停戦呼びかけを行っていますが、これまでに数十回合意された停戦はことごとく破られてきました。米国とサウジアラビアの仲介で2023年以降ジッダで和平交渉が断続的に行われ、人道停戦合意も模索されていますが、戦闘の決定打には至っていません。国連は増大する人道危機への対応を訴え、周辺のチャドや南スーダンなどへの難民流出も含め国際的支援を呼びかけています。 12 ただ戦闘当事者間の不信感は強く、国際社会による制裁や武器禁輸の強化なども検討されていますが、現状打開には時間を要する見通しです。
ミャンマー内戦
紛争の概要
東南アジアのミャンマー (ビルマ)では、2021年2月に国軍がクーデターを起こして民主政権を倒して以降、国軍 (タットマドー) と民主派勢力との間で内戦状態が続いています。各地で少数民族武装組織や市民抵抗組織「人民防衛軍 (PDF)」が国軍に対して武装蜂起し、政情は極度に不安定化しました。国際的監視団体ACLEDの推計によれば、クーデター以降の内戦でこれまでに5万人以上が死亡しているとされ 16、一般市民への無差別空爆・砲撃や人権侵害も深刻です。
今週の動向
先月末にミャンマー中部で大地震が発生したのを受け、国軍は一時的な停戦を宣言しましたが実際には戦闘は止まず、今月に入っても各地で激しい戦いが展開されています。 17 18 特にここ数週間で戦況が大きく動いたのは東部カヤー州 (カレンニー州)で、民主派の連合勢力が大規模な反攻を行い、各地で激しい銃撃戦の末に国軍部隊から数百人規模の投降者が出るなど国軍に打撃を与えました。 19 国軍は制空権を活かした空爆で反撃していますが、各地で抵抗勢力の攻勢が続いています。また戦闘の激化により一般市民の避難も相次ぎ、ここ数週間で数千人の住民が隣国タイとの国境を越えて避難しました。 20 タイ当局によれば、5月中旬までに約200人が越境避難し国境付近の収容キャンプに入ったとの情報もあります。 21
関連国・勢力
ミャンマー国軍はミン・アウン・フライン司令官を頂点とする統治評議会を樹立し、旧与党で指導者だったアウンサンスーチー氏らを拘束・失脚させました。一方、民主派は亡命先で「国民統一政府(NUG)」を樹立し、国内の各少数民族武装勢力 (カレン民族同盟KNU、カチン独立軍KIAなど)や市民防衛組織PDFと連携して抗戦を続けています。国土が広いため戦況は地域によって異なり、都市部ではデモ鎮圧から発展した地下抵抗活動、少数民族地域では従来からの自治要求闘争と結びついた形で戦闘が起きています。
国際社会の反応
国連や東南アジア諸国連合 (ASEAN) はクーデター直後からミャンマー情勢に懸念を表明し、ASEANは「5つのコンセンサス」による和平合意を提案しましたが国軍は履行していません。米国や欧州連合(EU)、日本なども国軍幹部への制裁措置を科し、武器禁輸や人道支援を進めています。しかし中国とロシアが国軍寄りの姿勢を見せて国連安保理での強硬な措置はとられておらず、打開は難航しています。周辺国のタイやインドにも難民や武力衝突の波及が及んでおり、タイ政府は国境警備を強化するとともに避難民の受け入れに対応しています。 22 23 国際人権団体は引き続きミャンマー国軍による市民虐待を非難するとともに、より強い国際圧力と紛争解決に向けた調停努力を求めています。
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