直近1週間に報じられた世界の主なテロ事件・関連ニュース(2025年5月10日~5月16日)
インド(カシミール) : 観光客銃撃テロと印パ間の緊張激化
概要
2025年4月22日、インド実効支配下のジャム・カシミール州パハルガム近郊で、武装集団が観光客らに無差別の銃撃を行い、ヒンドゥー教徒を中心に26人が死亡、20人以上が負傷しました。米NPRの報道によれば、この襲撃は2000年以来で最悪規模の民間人に対するテロ事件となりました。 1 現地証言では武装犯らが被害者に宗教を問い質してから発砲したとも伝えられており 2、非イスラム教徒観光客を標的にしたヘイトクライムの可能性も指摘されています。
犯行主体
犯行後、「カシミール・レジスタンス」と名乗る組織がテレグラム上で犯行声明を出しました。インド当局は同組織について、パキスタン軍に支援された武装勢力の隠れ蓑だと非難しています。 3 一方、パキスタン政府は自国の関与を強く否定し、「インドは根拠なき責任転嫁を繰り返している」と反論しました。 4
被害状況
インド政府の発表では死亡26人 (観光客25人と地元住民1人)・負傷20数人に上りました。 5 この観光客銃撃事件は、ヒンドゥー教徒を含むインド人旅行者が多数犠牲となったことでインド国内に大きな衝撃を与えました。治安当局は負傷者への救助活動を行うとともに、容疑者の行方を追ってカシミール域内で大規模な捜索・取締りを実施したと報じられています。 6
国際的反応・政府対応
インドのモディ首相は「犯人とその背後勢力を地の果てまで追跡して処罰する」と表明し、事件を計画・支援した勢力としてパキスタンを名指しで非難しました。 3 直後にインド政府はパキスタンとの外交関係を格下げし、国境検問所の閉鎖や主要河川の水利条約の一時停止など一連の制裁措置を発表しました。 7 さらに5月7日未明、インド軍はパキスタン支配地域内の「テロリストのインフラ」 9か所に対しミサイル攻撃を敢行し 5、印パ両軍による激しい越境砲撃戦が発生しました。これは両国が核武装して以降約20年ぶりの大規模軍事衝突となり、地域情勢は一気に緊迫化しました。パキスタン側はインドの攻撃により自国民31人が死亡、46人負傷したと発表し、「主権侵害への報復」を宣言しました。 5 国連のグテーレス事務総長や各国要人は事態の沈静化を呼びかけ、米国主導の仲介により5月10日に両国は一旦停戦で合意しましたが、その数時間後にもカシミール地方で散発的な銃撃戦が報告され停戦違反が非難し合われるなど、依然として予断を許さない状況が続いています。 9 10
パキスタン(バロチスタン州): 軍車両に対するIED爆破攻撃
概要
2025年5月6日、パキスタン南西部バロチスタン州で、軍の車列が簡易爆弾 (IED) による攻撃を受け兵士7名が死亡しました。 11 現場はアフガニスタン国境にも近い地域で、襲撃を受けた車両は治安作戦行動中の部隊の一部だったとされています。 12
犯行主体
パキスタン軍報道官は、分離独立を掲げる武装組織 「バロチスタン解放軍 (BLA)」の犯行だと断定し、同組織を「インドの代理勢力」と呼んで非難しました。 11 13 ただしBLA側から公式声明は出ておらず、インド政府も関与を否定しています。BLAはこれまでも同州で治安部隊やインフラを狙ったテロを繰り返しており、今年3月には旅客列車を一時ジャックして多数の犠牲者を出す事件も起きています。 14
被害状況
爆発によりパキスタン軍兵士7名が死亡、5名が負傷しました。 11 12 仕掛けられたIEDの威力は大きく、標的となった軍用車両は大破したということです。負傷者はヘリコプターで州都クエッタの軍病院へ搬送されて治療を受けています。 15
国際的反応・政府対応
パキスタン政府は直後に国家安全保障会議を開き、背後にいると指摘するインドへの対抗措置を含め対応を協議しました。 16 17 この事件は前述のカシミール銃撃テロによる印パ軍事衝突と時期が重なっており、緊張の高まりの中で発生しました。国連安全保障理事会の場でも双方の代表が非難を応酬する事態となり 18、地域の安定に対する懸念が国際的に表明されました。パキスタン当局は「自国領内にテロ拠点は存在しない」としてインドの空爆を非難しつつ、同様の攻撃が繰り返されれば報復せざるを得ないと警告しています。 19 20
ベナン:北部国境地帯におけるアルカイダ系勢力の致死的襲撃
概要
西アフリカのベナンで過激派による同国史上最悪規模の襲撃事件が発生しました。ロイター通信 21 によると、2025年4月17日、北部アリボリ県の公園地帯で軍の駐屯地や巡回部隊が武装勢力の急襲を受け、兵士54名が死亡しました(当初政府発表は8名だったが後日訂正)。 21 22 攻撃現場はブルキナファソやニジェールとの国境に接する 「W国立公園」周辺で、複数箇所の基地が同時に襲われたとみられています。
犯行主体
アルカイダ系武装組織「イスラム・ムスリムの支援団 (JNIM)」が犯行声明を出し、自らの「戦果」は兵士70人殺害にのぼると主張しました。 23 24 ベナン政府の発表した死者54名はこの主張より少ないですが、それでも北部で過激派の反乱が始まって以来最悪の被害となりました(従来の最多被害は今年1月の28名)。 25 26 JNIMはマリやブルキナファソを拠点に活動するサヘル地域のジハード集団で、近年ベナンやトーゴといった沿岸国北部にも浸透を強めています。 27
被害状況
ベナン政府報道官は「国家にとって重い損失だ」と犠牲の大きさを表現し 28、同国軍は直ちに周辺国と協力して追撃作戦を開始した模様です。現地からは、JNIMが公開したとされる映像に戦闘で倒れた数十名の兵士の遺体や鹵獲された装備品が映っていたとの報道もあります。 29 この襲撃でベナン軍が被った損失は、過去数年の同国軍戦死者総数に匹敵すると指摘する分析もあります。 30
国際的反応・政府対応
ベナン当局は「テロリストに屈しない。我々は戦い続け、必ずや勝利する」と強調し、隣国トーゴなどとも協調して北部国境の警戒を強めています。 31 フランスの公共放送局RFIは「今回の被害はベナン当局による過激派勢力対策の転換点となり得る」と分析し、米国や欧州も西アフリカ沿岸国へのテロ拡大を深刻視して治安支援を強化する見通しであると報じています。また、地域研究者は「JNIMのベナン展開は米国が同国を安全保障上の要と見なしてきた構図を揺るがすもの」と指摘し、ロシアやワグネル傭兵会社の影響力拡大とも相まって西アフリカ情勢の不安定化が懸念されると分析しています。 32 33
ナイジェリア: 北東部ボルノ州における民間車両への爆弾攻撃
概要
ナイジェリア北東部ボルノ州でもテロ事件が発生しました。4月28日、複数の民間人を乗せたトラックが移動中に仕掛け爆弾 (IED) を踏んで爆発し、男性・女性・子どもを含む26人が死亡しました。 34 35 事件現場はカメルーン国境に近いラン=ガンボル間の道路上で、長年ボコ・ハラムやISWAP (イスラム国西アフリカ州) の反乱に苦しむ地域でした。 36 地元では直近数日間に武装勢力の動きが活発化しており、治安情勢の悪化が指摘されていたということです。 37 38
犯行主体
事件直後の段階では犯行声明はありませんでしたが、インドのTIMES OF INDIA紙などによれば後日ISWAP (イスラム国西アフリカ州) が犯行を主張しました。 39 ボルノ州はボコ・ハラムとISWAPの双方が活動する拠点であり、当局は両勢力のいずれかによるテロと見て捜査しています。 38 目撃者の話では「車列は地雷原に突っ込み車体は粉々になった」といい、周辺住民らは旧ボコ・ハラム勢力の残党による犯行と考えています。 40 41
被害状況
トラックに乗っていた住民26名が即死し、他に3名が重傷を負いました。 35 死者の内訳は男性16名・女性4名・子ども6名と伝えられています。 42 現場に駆け付けた軍兵士や民間治安協力隊が負傷者を病院に搬送したものの、生存者はごく僅かでした。 43 遺体の収容作業にあたった住民は「母親の遺体は原形を留めておらず識別できない状態だった」と地元メディアに語っています。 40
国際的反応・政府対応
ナイジェリア警察は現在詳細を公表していませんが 35、国内では北東部での相次ぐテロに対し政府の対策強化を求める声が上がっています。治安専門家は「この地域では過去15年以上にわたりイスラム過激派の反乱で4万人以上が死亡しており、今回の事件はその脅威がなお続いていることを示すものだ」と指摘しています。 44 45 国際社会からも、長期化するナイジェリア北東部の過激派紛争による人道危機に懸念が表明されており、周辺諸国との連携や住民保護の強化が課題となっています。
ギリシャ:テッサロニキの銀行支店前で発生した爆弾テロ未遂
概要
2025年5月3日未明、ギリシャ第二の都市テッサロニキの銀行支店付近で爆発が発生し、現場にいた38歳の女が重傷を負いました(搬送先の病院で死亡)。 46 ロイター通信によれば、女は爆弾を現金自動預け払い機 (ATM) 付近に設置しようとしていた最中に爆発させてしまったとみられています。 46 ギリシャ警察は現場で多数の不発弾や部品を回収し、爆発物の詳しい構造や入手経路を調査しています。
犯行主体
死亡した女は前科があり麻薬取引や売春への関与で逮捕歴がありました。単独犯との見方もありますが、警察の組織犯罪対策部門が捜査を担当し、女が極左過激派グループと繋がりがあった可能性についても調べています。 47 ギリシャでは1970年代以降、政府高官や外国企業を標的にした左翼テロが散発してきた歴史があり、当局は今回の事件との関連性についても慎重に分析を進めています。 48
被害状況
容疑者本人以外に一般市民の死傷者は報告されていません。爆弾は銀行支店の屋外に仕掛けられていたとみられ、爆風で建物の窓ガラスが割れるなどの被害が出ました。 49 昨年にはアテネ市内で爆弾組み立て中の男が誤爆で死亡する事件も起きており 50、当局は国内に潜在する爆弾テロ犯ら「新世代の過激派」の動向に警戒を強めています。 51 52
国際的反応・政府対応
本事件はギリシャ国内の局地的なテロ未遂とみられ、国際的な直接反応は限定的ですが、欧州当局者の間では移民・経済危機後のギリシャにおける政治的急進化への懸念も語られています。一方、ギリシャ国内では鉄道事故追悼集会など一部デモ活動が過激化する動きもあり、治安当局は要人警護や都市部の警備を強化しています。 48 53 専門筋は「小規模な爆弾テロはしばしば物的被害に留まり重大な人的被害は稀だが、社会不安を醸成し得る点で看過できない」と指摘しています。
アメリカ(ミシガン州): ISIS支持者による軍基地攻撃計画の摘発
概要
米国では過激派組織ISISによる「ホームグロウン」 (自国育ち) テロ計画が発覚しました。CBSニュース 54 によると、2025年5月13日、ミシガン州メルビンデール在住の19歳の元州兵の男が、デトロイト近郊にある陸軍基地(デトロイト兵器廠) に対する銃乱射テロを企図した容疑で現行犯逮捕されました。 54 55 男は犯行当日、基地周辺にて自作ドローンを飛ばして偵察を開始したところを当局に拘束されたもので、逮捕時に武装もしていました。
犯行主体
逮捕された Ammar Abdulmajid-Mohamed Said容疑者(19)は、米陸軍州兵を除隊後にイスラム過激思想に感化され、SNS上でISISへの忠誠を示していたとされます。彼は自宅で攻撃計画を練り、潜入捜査官を「仲間」と信じて犯行計画を共有していました。 56 計画には貫通弾付きライフルや火炎瓶(モロトフカクテル)が用いられ、標的の基地内のどの建物を襲うかまで具体的に指示していたということです。 57 幸い捜査当局が計画段階から監視しており、攻撃決行日当日に容疑者を取り押さえることで大量殺人を未然に防ぎました。 58 FBIは「被疑者は国内に潜むローンウルフ型のテロリストだ」として、ネット上で拡散するISISの勧誘・過激化プロパガンダへの警戒を呼びかけています。
被害状況
本件では当局の事前摘発により幸い死傷者は発生しませんでした (未遂)。しかし司法省発表によれば、容疑者は犯行準備のため銃弾や弾倉を調達し、基地上空の偵察、仲間への訓練まで行っていました。 57 計画通りに実行されていれば多数の軍人や民間人が犠牲になる可能性があったとされ、当局は「一歩間違えば大惨事だった」と危機感を示しています。
国際的反応・政府対応
米司法省は5月14日付の声明で「国内の軍施設を標的にISISのため大量殺人を企てた許し難いテロ未遂事件だ。法の裁きにより断固たる措置を取る」と表明しました。 59 捜査を主導したFBIも「米本土や在外米国人を狙ったテロ計画を決して見逃さず阻止する」と強調し 60、米軍当局は元兵士による内通テロの脅威に対し「カウンターインテリジェンス (防諜) 努力の重要性を再認識させる事例だ」と述べています。 61 本件は欧米各国にも衝撃を与え、専門家は「ISISはインターネットを通じて世界各地の若者を過激化させうる」として各国の対テロ当局に警戒を促しています。
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