子ども・子育て支援金制度とは?「独身税」は誤解?負担額から支援内容までを紹介
近年、日本では少子化と人口減少が深刻な社会問題となっています。特に2030年代にかけて若年人口が急激に減少することが予想されており、「少子化傾向を放置できないラストチャンス」とも言われる危機的な状況です。この状況に対応するため、政府は2023年末に「こども未来戦略」を策定しました。そして、児童手当の拡充など総額3.6兆円規模にも及ぶ「こども・子育て支援加速化プラン」を打ち出しました。
こうした大規模な支援策を実現するには、安定した財源が不可欠です。そこで新たに創設されたのが「子ども・子育て支援金制度」です。これは、少子化対策のための財源を確保する新しい仕組みであり、社会全体で子どもや子育て世帯を支えることを目的とした「新しい分かち合いの仕組み」と位置づけられています。 1 制度の狙いは、若い世代の将来への不安を和らげ、経済社会の活力を維持するために、社会全体で子育てを支援することにあります。 2
「独身税」?制度の正式名称と開始時期
本制度の正式名称は「子ども・子育て支援金制度」です。2024年(令和6年)6月12日に「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」が成立し、創設が決定しました。 3
一部では「独身税」といった俗称で呼ばれることもありますが、実際にはそのような新しい税金が作られるわけではありません。 4 この制度は、子どもがいない人にも負担が生じる仕組みのため、誤解を招く呼び方が広まったようです。しかし、特定の独身者を狙い撃ちにする罰金的な税ではなく、全世代が広く公平に支え合う社会保険の枠組みの中で導入されるものです。負担は新たな税ではなく、医療保険料への上乗せという形で発生します。 5
制度の開始は段階的に行われます。支援金の徴収が始まるのは2026年度(令和8年度)からで、段階的に金額を拡大し、2028年度(令和10年度)に本格実施となる計画です。政府は、2026年度に約6,000億円、2027年度に約8,000億円、2028年度には約1兆円規模の資金をこの制度で確保する予定です。 6
財源と財政の仕組み
「子ども・子育て支援金制度」は、前述の「こども・子育て支援加速化プラン」を実現するための特定の財源です。総額3.6兆円規模の支援策のうち、約1兆円をこの支援金制度で賄います。残りの約2.6兆円(全体の約7割)は、既存の予算の見直しや歳出改革(支出の削減)によって捻出する計画です。 7
これは、新たな増税や国債の発行に頼らずに財源を確保するための工夫です。政府は、医療・介護分野の歳出を徹底的に見直し、さらに賃上げを促進することで、社会保険料の負担増を実質的に相殺する方針を示しています。この枠組みの中で制度を構築し、社会保障全体で見た国民の負担率が上がらないようにすることを目指しています。 8
なお、制度が本格的に稼働する2026年度までの間、拡充される子育て支援策に必要な費用は、一時的に「子ども・子育て支援特例公債」という国の特別な債券で賄われます。 9 これは「つなぎ融資」のようなもので、発行した特例公債は、支援金制度で集めた資金の一部を使って計画的に返済されるため、長期的な財政の健全性にも配慮した仕組みとなっています。 10
徴収方法と負担額について
支援金の徴収は、私たちが普段支払っている公的医療保険の保険料に上乗せする形で行われます。 11
なぜ医療保険料とセットなのですか?
医療保険制度は、日本に住む全国民が加入する仕組みであり、その対象範囲が非常に広いことが理由の一つです。また、医療保険には、現役世代が高齢者の医療を支えるといった、世代間の支え合いの仕組みが元々組み込まれています。 12 少子化に歯止めをかけることは、将来の医療保険制度を持続可能なものにすることにも繋がるため、最も幅広い世代から公平に集めやすい医療保険料の仕組みが選ばれました。 13
重要な点として、この支援金は医療保険料とは明確に区別して管理されます。 14 つまり、医療のために集められたお金が子育て支援に使われるわけではなく、法律でその使い道が厳密に分けられています。
具体的な負担額はいくらですか?
支援金の額は、加入している医療保険の種類や所得によって異なります。政府の試算によると、制度が本格実施される2028年度(令和10年度)時点で、1人あたりの平均負担額は月額約450円程度となる見込みです。 15
加入する保険制度別の負担額(月額平均)の目安は以下の通りです。
- 被用者保険(会社の健康保険など): 約500円(※労使折半なので、被保険者本人の負担は約250円)
- 国民健康保険(自営業者など): 約400円
- 後期高齢者医療制度(75歳以上など): 約350円
この負担額は2026年度から段階的に始まり、初年度は月平均250円程度からスタートし、3年間かけて少しずつ引き上げられる予定です。 17 また、低所得者世帯には保険料の軽減措置が適用され、国民健康保険に加入する18歳未満の子どもの支援金分は全額免除されるなど、負担への配慮もなされています。 18
支援金の主な使い道
集められた支援金は、法律により使い道が厳しく定められており、子ども・子育て支援に関連する施策にのみ充てられます。 19 政府は、お金の流れを透明にするため、「子ども・子育て支援特別会計」を創設する予定です。主な支援内容は以下の通りです。
- 児童手当の拡充(2024年10月~)
- これまで中学生までだった支給対象を高校生年代まで延長し、所得制限を撤廃します。さらに、第3子以降の支給額を月額3万円に増額します。 20
- 妊婦のための支援給付(2025年4月~)
- 妊娠・出産時に合計10万円の給付金を支給する制度を恒久化します。これにより、妊娠期から出産直後までの経済的負担を軽減します。
- こども誰でも通園制度(2026年4月~)
- 保護者の就労状況にかかわらず、0歳6か月から2歳までの子どもが保育所などを時間単位で利用できる新しい制度です。 21
- 出生後休業支援給付(2025年4月~)
- 子どもの出生直後に両親が育児休業を取得した場合、休業中の手取り収入が実質100%になるよう支援する新しい給付金です。 22
- 育児時短就業給付(2025年4月~)
- 2歳未満の子どもを育てるために時短勤務をする人に対し、短縮した時間によって減った賃金の10%を補助する制度です。 23
- 国民年金第1号被保険者の育児期間保険料免除(2026年10月~)
- 自営業者やフリーランスなどが、子どもが1歳になるまでの国民年金保険料を免除される制度です。 24
これらの施策強化により、0歳から18歳までに子ども1人あたり平均で約146万円もの給付が増える見込みです。これは、子育て世帯やこれから子どもを持つ若い世代にとって大きな後押しとなります。
負担の対象者と社会的意義
この制度では、全世代・全経済主体が広く薄く負担を分かち合うことを目指しています。そのため、現役世代の会社員や自営業者から高齢者まで、子どもの有無にかかわらず、全ての公的医療保険加入者が負担の対象です。事業主(企業)も保険料負担を通じて参加します。
「なぜ子どもがいないのに支払うのか?」という疑問に対し、政府は「少子化の克服は日本社会全体の課題であり、誰にとっても無関係ではない」と説明しています。 25 将来の労働力人口の減少は、経済の縮小や社会保障制度の維持を困難にします。つまり、将来の社会を維持するために、少子化対策は全ての人にとって重要だということです。特に企業にとっては、将来の労働力確保や国内市場の維持という点で、長期的に見れば自社の利益にも繋がる投資と言えます。 26
よくある質問・誤解のポイント
- Q: 「独身税」が導入されるというのは本当ですか?
- A: いいえ、それは誤解です。「独身税」という新しい税金ができるわけではありません。この制度の正式名称は「子ども・子育て支援金制度」であり、社会保険料の一部として徴収されます。独身者だけを対象にしたものではなく、子育て世帯を含む全国民が広く薄く負担する仕組みです。
- Q: 負担が増えて生活が苦しくなるのではないでしょうか?
- A: 1人あたりの負担額は平均で月額数百円程度と試算されており、急激な負担増にはならない見込みです。さらに政府は、医療・介護分野の歳出改革や賃上げの効果によって、社会保険料全体での実質的な負担が増えないように調整するとしています。また、低所得世帯への軽減措置も用意されています。
- Q: 集めたお金は本当に子育て支援に使われるのですか?
- A: はい。法律によって、この支援金の使い道は子ども・子育て支援に関連する施策に限定されています。政府は「子ども・子育て支援特別会計」を新設し、資金の使途を明確に公表する予定であり、透明性の確保が図られています。
おわりに
「子ども・子育て支援金制度」は、日本の深刻な少子化問題に対応するため、社会全体で次世代を支えるという考え方に基づいた新しい仕組みです。一部で誤解を招く呼ばれ方もされていますが、その本質は「未来への投資」と言えるでしょう。月々数百円程度の負担が、子育て家庭への大きな支援となり、ひいては日本経済や社会保障制度の安定に繋がることが期待されています。
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