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ダンジョン探索ゲーム「Dark and Darker」Epic Gamesストアから削除へ

「Dark and Darker」Epic Gamesストアから削除、Nexonとの法廷闘争の経緯と影響を解説

2023年に大きな注目を集めたダンジョン探索ゲーム「Dark and Darker」が、2025年3月にEpic Gamesストアから削除されるという事態に至りました。背景には、開発元のIronmace社と大手ゲーム会社Nexonとの2年以上にわたる法廷闘争があります。この記事では、この複雑な事件の経緯を、法的紛争からプラットフォームの対応、そしてユーザーへの影響まで、時系列に沿ってチェックしましょう。

発端:NexonとIronmaceの法的紛争

この事件の中心にあるのは、Ironmace社と、同社の設立メンバーがかつて所属していたNexonとの間の法的な争いです。

「P3」プロジェクトと盗用疑惑

Ironmace社は、Nexonの元社員らによって設立された開発会社です。Nexonは、Ironmaceが開発した「Dark and Darker」が、自社で開発中だった未発表プロジェクト「P3」と酷似していると主張しました。 1

実際に、「P3」の開発チームの約半数がNexonを退社後にIronmaceへ参加しており、 2 Nexonは、元社員らが開発データや企画といった営業秘密を不正に持ち出したとして、Ironmaceを非難しました。 3 これに対し、Ironmace側は「ゲームのジャンルというアイデアは著作権の対象外であり、全て一から独自に開発した」と全面的に否定しました。

法廷闘争の展開と判決

2023年3月、Nexonの刑事告発を受けて韓国警察がIronmaceの本社を家宅捜索。さらにNexonは、米国のDMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づき、ゲーム配信プラットフォームのSteamに対して著作権侵害を申し立てました。これにより、同月26日に「Dark and Darker」はSteamストアから一時的に削除されました。 5

その後、法廷での争いが本格化。Nexonが求めていた開発・配信の差し止め仮処分は、2024年1月に韓国の裁判所によって棄却されました。この時点では「盗用された明確な証拠はない」と判断されたのです。

しかし、本訴訟は続き、2025年2月に第一審判決が下されました。その内容は「著作権侵害は成立しないが、営業秘密の侵害は認める」というものでした。 12 裁判所は、Nexonの未公開の開発資料をIronmaceが流用した点を違法と判断し、Ironmaceに対して約85億ウォン(約5億9000万円)の損害賠償を命じました。これは実質的にNexon側の勝利と評価されています。

警察の捜査とプラットフォームの対応

この法廷闘争の過程で、各ゲーム配信プラットフォームは異なる対応を見せました。

Steamでの配信停止と異例のテスト継続

2023年3月にSteamから削除された際、IronmaceはBitTorrentを通じてゲームのクライアントを直接配布するという異例の方法で、アルファテストを継続しました。 17 この「昔ながらの手法」は、かえって熱心なファンからの支持を集め、話題となりました。

その後、前述の仮処分棄却などを受け、2024年6月にはSteamでの配信が正式に再開されました。このとき、基本プレイ無料(F2P)の形式で提供され、多くのユーザーから歓迎されました。

各プラットフォームの対応の違い

Valve社が運営するSteamは、DMCAという法的手続きに則って迅速にゲームを削除しましたが、法的な問題が一定の解決を見たことで配信再開を許可しました。一方、Epic Gamesは、後述するように韓国での裁判結果を重視し、自社の判断でゲームをストアから排除するという、より慎重な対応を取りました。

なぜEpic Gamesストアから削除されたのか?

Steamでの復活からわずか半年余り、今度はEpic Gamesストアで販売が停止されるという事態が発生しました。

削除の理由とタイミング

2025年2月の韓国での判決(営業秘密の侵害認定)を受け、Epic Gamesは2025年3月5日、「Dark and Darker」をストアから突如削除(デリスト)しました。

Ironmaceは翌日、「Epic GamesがDark and Darkerをストアから削除する決定を下した」と公表し、その理由は「進行中の法的紛争における相手方(Nexon)の主張を踏まえたものらしい」と説明しました。 23

Epic Gamesが公式に示した削除理由は、「韓国における裁判結果を考慮したため」です。著作権侵害は否定されたものの、他社の営業秘密を利用して開発されたと認定されたゲームを販売し続けることは、コンプライアンス上のリスクがあると判断したと見られます。

Epic版購入者への対応(2025年6月現在)

Epic Gamesストアで「Dark and Darker」を所有していたユーザーに対しては、公式にメールで今後の対応が通知されました。2025年6月時点での主な対応内容は以下の通りです。

  • ライブラリからの削除:2025年11月1日に、ユーザーのライブラリから本作が完全に削除され、起動できなくなります。
  • ゲーム内通貨の扱い:購入済みのゲーム内通貨「レッドストーンシャード」は2025年11月1日まで使用可能ですが、新規購入は停止されています。この通貨の購入分に対する返金は行われません。
  • 有料アップグレードの返金:有料DLCである「レジェンダリーステータス」を購入していた全ユーザーに対し、代金の全額返金が実施されます。

Epic Gamesは、これらの措置が「韓国での裁判所の決定を踏まえたもの」であると説明しています。

まとめ:ゲーム開発の知財管理に一石を投じた事件

「Dark and Darker」を巡る一連の出来事は、元社員による独立プロジェクトが、大手企業の知的財産と衝突した典型例として、ゲーム業界に大きな問題を投げかけました。著作権と営業秘密という法的な論点の違いや、プラットフォームごとの対応の差異が浮き彫りになった本件は、ゲーム開発における知的財産管理の難しさを示す重要なケーススタディと言えるでしょう。

現時点(2025年6月)で、Steamでは引き続き本作をプレイ可能ですが、今後の法的な動向次第では状況が変わる可能性も残されています。開発元のIronmaceは「ゲーム開発を諦めない」と表明しており、ファンの間では本作が再び安定して提供される日を期待する声が根強くあります。


参考文献:引用文献

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