この1週間の主要国際外交ニュースまとめ(2025年5月3週)

2025年5月第3週の主要国際外交ニュースまとめ

米中貿易協議で関税一時停止に合意

概要

2025年5月10日から12日にかけて、スイスのジュネーブで米中両政府の高官による閣僚級協議が実施されました。この協議には、米国のスコット・ベッセント財務長官と中国の何立峰(か りっぽう)副首相らが出席し、長期化している貿易摩擦の緩和策について話し合われました。 1

主なテーマ

今回の協議では、二国間の貿易摩擦、特に関税問題が主要なテーマとなりました。双方が課している追加関税の引き下げ交渉と、安定した経済関係の再構築が焦点でした。

合意内容・発言の要点

協議の結果、双方は追加関税を90日間相互に一時停止し、関税率を約115パーセントポイント引き下げることで合意しました。 1 この合意に基づき、5月14日から関税の一時停止措置が開始される予定です。さらに、経済・貿易対話を継続するための新たな枠組みも設置されることになりました。この措置により、米国の対中関税率は現在の145%から30%へ、中国側の対米関税率は125%から約10%へと大幅に低減する見通しです。

ベッセント財務長官は協議後、「貿易戦争の緩和に向けて大きな進展があった」と評価しました。一方、中国側も「世界経済の安定にとって重要な意義がある」との認識を示しています。

国際的な反応

この米中合意は金融市場にも好影響を与え、5月12日の中国および香港の株式市場は上昇し、人民元も対ドルで値を上げました。 2 世界貿易機関(WTO)は、今回の進展を「大きな前進」として歓迎しており 3、各国も米中対立の緩和が世界経済に好影響をもたらすことに期待を寄せています。

ウクライナ和平をめぐる外交: トルコ仲介と欧州の動き

概要

2025年5月15日、トルコのエルドアン大統領は首都アンカラでウクライナのゼレンスキー大統領と会談しました。会談後、エルドアン大統領は、ウクライナとロシアの首脳会談を「準備が整い次第」トルコで主催する用意があると表明しました。 4 同じく15日には、イスタンブールで約3年ぶりとなるロシアとウクライナの高官による直接協議が予定されていましたが、ロシアのプーチン大統領が不参加を表明したため、ゼレンスキー大統領も出席を見送る事態となりました。 5

主なテーマ

ウクライナ情勢を巡る外交交渉では、安全保障と停戦交渉が主要な議題となっています。ロシアによる軍事侵攻が続く中、停戦の実現、捕虜交換、人道回廊の確保など、和平に向けた対話の糸口を探ることがテーマです。

合意内容・発言の要点

エルドアン大統領は、今回の和平協議の機会を「歴史的なもの」と位置づけ、ロシアとウクライナ間の対話チャンネルを維持する必要性を強く訴えました。 4 トルコは過去に穀物輸出合意の仲介実績もあり、停戦に向けて積極的な調停役を担う姿勢を示しています。

一方、欧州では緊張緩和に向けた動きと並行して、ロシアへの圧力も継続されています。5月13日、ドイツのメルツ首相(当時)はギリシャ首相との共同会見で、「今週中に紛争解決への具体的な進展がなければ、対ロシア制裁を一段と強化する用意がある」と警告し、新たな制裁パッケージの準備が整っていることを明らかにしました。 6 また、EU首脳らは、「ロシアによる無差別攻撃が停止されれば、ゼレンスキー大統領がイスタンブール協議に参加しうる」という条件付きで、ウクライナの対話参加を支持する立場を示しています。 7 メルツ首相はさらに、「ゼレンスキー大統領の譲歩の意志は評価するが、これ以上の譲歩は容認できない」とも述べ、ロシア側の態度変化を強く求めました。 8

国際的な反応

欧米諸国や国際機関は、トルコによる仲介努力を支持する姿勢を見せています。EUは追加制裁の可能性を示唆しつつウクライナ支援を継続し、国連のグテーレス事務総長も早期の停戦と和平交渉の開始を呼びかけています。ロシアに対しては態度改善を促す国際的な圧力が強まっており、NATOやG7各国も引き続きウクライナ支援と外交的解決の両面で協調していく方針です。

トランプ米大統領の中東歴訪:投資・防衛協力とシリア・イスラエル関係

概要

アメリカのトランプ大統領は、2025年5月13日から16日にかけて、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)の湾岸3か国を歴訪しました。これは大統領再就任後初の本格的な外遊となり、各国首脳との会談を通じて経済・安全保障分野での協力強化が図られました。 9

主なテーマ

今回の歴訪では、投資を主導とした経済協力と中東地域の安全保障が主要テーマとなりました。具体的には、米国への大型投資の誘致、軍事・防衛協力の強化、そして中東和平(特にイスラエルとアラブ諸国の関係改善)が議題の中心でした。

合意内容・発言の要点

サウジアラビアの首都リヤドで開催された米サウジ投資フォーラムでは、サウジアラビア側から総額6000億ドル規模にも上る対米投資計画が発表されました。 10 また、軍用機や防空システムの供与を含む、総額1420億ドル規模の「史上最大」とされる米サウジ間の防衛取引にも合意し、安全保障協定が締結されました。 11 トランプ大統領は同フォーラムでイランの核・ミサイル開発問題にも言及し、「今が合意の好機だ。行動がなければ圧力や軍事行動も辞さない」と述べ、イランに対し迅速な対応を迫りました。

さらに、今回の訪問ではシリア情勢に関して大きな動きがありました。トランプ大統領は「シリア再建のため」として、シリアのイスラム主導政権に対する米国の制裁を全て解除すると電撃的に発表しました。その上で、5月14日にはサウジアラビアでシリアの暫定大統領アフマド・アル=シャラー氏と極秘会談を行ったと報じられています。 12 13 トランプ大統領はシャラー氏に対し、イスラエルとの国交正常化(アブラハム合意への参加)を促し、シャラー氏も「然るべき状況が整えばいずれ合意に加わる用意がある」と応じたとされています。 14 これは、米国がシリアへの制裁解除と引き換えに、長年断交状態にあったイスラエルとの関係樹立をシリアに促すという、新たな外交方針を示唆するものです。

また、訪問先のカタールでは、同国による米ボーイング社製旅客機160機の大型購入契約の調印に立ち会い、UAEではAI(人工知能)や先端技術分野での協力強化について合意するなど、経済・技術面での連携も打ち出しました。

国際的な反応

湾岸諸国は、米国からの巨額投資や防衛協力の強化を歓迎しており、トランプ大統領の取引を重視する外交スタイルを好意的に受け止めている様子です。特にサウジアラビアのムハンマド皇太子は、自国の技術力・投資力と米国の産業基盤との連携に前向きな姿勢を示しており、イランに対抗するための安全保障面でも米国との関係強化を重視しています。

一方で、今回の歴訪先にイスラエルが含まれなかったことは、国内外で様々な憶測を呼び、「同盟国イスラエルを後回しにして、中東における新たなパートナーシップを再構築しようとする動きではないか」との見方も出ています。シリアに対する制裁解除については、米議会や人権団体から「テロ組織を前身とする政権への譲歩ではないか」といった懸念の声も上がっています。また、カタールが提案したとされる大統領専用機の提供申し出は、前例のない高額な贈呈であり、米国内で倫理面や安全保障面での議論を呼んでいます。 15

総じて、トランプ大統領の中東歴訪は、中東情勢に対する米国の影響力回復と経済的利益の追求という狙いを鮮明にする一方で、その大胆な外交手法が国内外で賛否両論を巻き起こしています。

アラブ連盟バグダッド首脳会議: ガザ復興支援と紛争への対応

概要

2025年5月17日、イラクの首都バグダッドで第34回アラブ連盟首脳会議(サミット)が開催され、パレスチナ・ガザ情勢が主要な議題となりました。 16 この会議には、エジプトやサウジアラビアを含むアラブ各国の首脳に加え、国連のグテーレス事務総長やスペインのサンチェス首相も招待されました。 17

主なテーマ

サミットでは、パレスチナ・ガザ地区における深刻な人道危機と、その後の復興計画が中心的な議題となりました。2025年に入ってからガザ地区では大規模な戦闘が再燃し、市民の死者数が5万人を超えるという未曾有の事態となっています。 18 19 これを受け、停戦の実現、被災地の復興支援策、そしてイスラエルに対する国際的な圧力の強化などが討議されました。

合意内容・発言の要点

サミットの最終声明では、「ガザ復興計画」への支持が表明され、国際社会および地域の金融機関に対し、迅速な資金拠出を強く要請する内容が盛り込まれました。 20 イラクのスーダニ首相は開幕演説で、「ガザで起きていることは前例のない規模の悲劇だ」と述べ、イスラエルの軍事行動を厳しく非難しました。 21 さらに、「パレスチナ人支援のためのアラブ基金」の創設を提案し、イラクとして2,000万ドルを拠出することを表明しました。 22 スーダニ首相はまた、「パレスチナ人の強制移住は決して認められない。ガザでの戦闘とヨルダン川西岸への攻撃は直ちに停止されるべきだ」と述べ、イスラエルの占領政策と戦闘行為を強く批判しました。 23 会議では、即時かつ無条件の停戦や、人道支援物資の自由な搬入の実現を求める声で各国が一致しました。 24

国際的な反応

国連や欧州からも、アラブ連盟の動きに対し強い支持と連帯のメッセージが寄せられました。国連のグテーレス事務総長は会議に出席し、「即時かつ恒久的な停戦、全ての人質の無条件解放、そして人道支援の封鎖解除が今すぐ必要だ」と訴えました。 17 スペインのサンチェス首相も演説を行い、「ガザで進行中の悲劇を止めるため、国際法に基づき、あらゆる手段を用いてイスラエルに圧力をかけなければならない」と述べました。 17 25 アラブ諸国は、米国のトランプ大統領が示唆したとされる「ガザ統治案」には強く反発しており 20、パレスチナの自治と復興はあくまでアラブ諸国が主導して進めるという決意を表明しています。今回のサミットを受け、国際社会においてもガザへの人道支援拡充や停戦実現に向けた動きがさらに加速することが期待されます。

インドとパキスタンの停戦合意 (カシミール情勢)

概要

4月下旬にインドが実効支配するカシミール地方で発生したテロ事件(観光客襲撃)をきっかけに、5月7日にインド軍がパキスタン領内の過激派拠点を空爆したことで、両国間の緊張が一気に高まりました。 26 パキスタン側も5月10日未明に「対インド軍事作戦」を開始したと発表し、一時は核保有国同士による本格的な軍事衝突が現実味を帯びる緊迫した状況となりました。 26

主なテーマ

この問題の核心は、テロ対策と地域の安全保障です。長年にわたり対立してきたインドとパキスタンの間で、テロ事件への対応を巡って報復の連鎖が発生し、南アジア地域の安定と、最悪の場合の核戦争の回避が国際社会全体の大きな懸案事項となりました。

合意内容・発言の要点

米国などの積極的な仲介により、事態は急転直下で沈静化へと向かいました。2025年5月10日、インドとパキスタンは「完全かつ即時の停戦」に合意し、同日午後5時(現地時間)をもって双方が全ての軍事行動を停止すると発表しました。 27 この合意は、主に米国の仲介による集中的な協議の成果と見られています。トランプ米大統領は自身のSNSで「両国が常識と卓越した判断力を発揮した」と停戦合意を歓迎するコメントを発表しました。 28 また、ルビオ米国務長官も停戦の成立を確認し、今後両国は中立地で包括的な懸案事項について協議を開始するとの見通しを表明しています。 29 停戦合意に至るまでの緊迫した48時間の間には、米国のルビオ国務長官やバンス副大統領が両国の高官と集中的に電話協議などを行っていたことも明らかにされています。 30 パキスタンのダール外相は、「我々は常に主権と領土を損なうことなく、地域の平和に努力してきた」と述べ、今回の「即時停戦」合意を確認しました。 31

国際的な反応

国際社会は、この紛争の急速な沈静化を安堵とともに受け止めました。G7主要7か国は、緊張が高まっていた期間中、双方に自制と対話を強く促しており 32、今回の停戦成立に各国首脳や国連も歓迎の意を表明しています。米国の仲介成功は特に高く評価され、一部報道では「34か国が関与した外交努力」の成果とも伝えられました。 33 しかし、停戦発表から数時間後には、双方が互いに停戦違反があったと非難し合う動きも伝えられており 34、依然として両国間の不信感は根強い状況です。各国は両当事国に対し、合意の遵守と対話の継続を強く求めており、南アジア地域の安定維持に向けた外交的フォローアップが続けられています。

豪・インドネシア首脳会談で安保協力を強化

概要

2025年5月15日、インドネシアの首都ジャカルタで、オーストラリアのアルバニージー首相とインドネシアのプラボウォ大統領による首脳会談が行われ、安全保障分野での連携強化で一致しました。 35 アルバニージー首相にとって、2期目の再選後初めての外国訪問となる今回の会談は、インド太平洋地域の戦略的文脈において注目されています。

主なテーマ

会談の主なテーマは、インド太平洋地域における安全保障協力と経済連携でした。特に、中国やロシアの影響力拡大を念頭に、両国間の防衛協力のあり方、地域秩序の維持、そして経済安全保障(特に重要鉱物資源のサプライチェーンなど)における連携について話し合われました。

合意内容・発言の要点

両首脳は、昨年締結された二国間の防衛協定を踏まえ、さらなる協力拡大に合意しました。アルバニージー首相は共同記者会見で、「インド太平洋の繁栄と安定にとって、インドネシアほど重要な国はない」と述べ、海洋安全保障やテロ対策といった分野で新たな協力が可能になったと強調しました。 36

インドネシア側も、防衛協力の深化に加え、農業や水産分野へのオーストラリアからの投資拡大、そしてインドネシアが進める経済協力開発機構(OECD)への加盟に対する支援に期待を示しました。 37 インドネシアは「全方位外交」を掲げ、今年、新興国ブロックであるBRICSにも加盟しており、オーストラリア側としては、インドネシアを地域の重要なパートナーとして西側諸国との連携に引き留めたいという思惑があります。 38 実際、アルバニージー政権は、インド太平洋地域で影響力を増す中国やロシアを牽制しつつ、インドネシアとの結束を強化する戦略を鮮明に打ち出しています。 38

国際的な反応

この首脳会談は、インド太平洋地域の勢力図に影響を与える可能性のある動きとして、国際的にも注目されました。オーストラリアと東南アジア最大の国家であるインドネシアとの関係強化は、QUAD(日米豪印の枠組み)やAUKUS(米英豪の安全保障協力)といった地域の安全保障枠組みに直接参加していないインドネシアを、西側陣営に引き寄せる効果が期待されています。米国や日本など、オーストラリアの同盟国は両国の協力を歓迎しており、中国やロシアの影響力拡大に対する抑止力の強化につながる措置と評価する声が上がっています。

一方で、中国はインドネシアのBRICS参加などを通じて同国との関係深化を図っており、オーストラリアとの接近には神経をとがらせているとみられます。今年4月には、ロシア軍機がインドネシアに駐留することを打診したとの報道が流れ、オーストラリアが懸念を示す一幕もありました。 39 こうした背景もあり、今回の会談は、インドネシアに対する西側諸国の関与を強化する動きとして位置づけられています。インドネシア自身は伝統的に中立外交を維持しており、今後、大国間の関係をどのようにバランスさせていくかが注目されます。

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