COP30ベレン開催:アマゾンから世界へ、気候変動対策の象徴と課題
2025年11月、ブラジルのアマゾン熱帯雨林地域の中心都市ベレンで、第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)が開催されます。史上初めてアマゾン地域で開催されるこの会議は、地球最大の熱帯雨林が直面する危機と、気候変動対策におけるその重要性を国際社会に強く訴える象徴的な機会となります。本記事では、COP30がアマゾンで開催される意義、ブラジル国内での注目度、開催地ベレンの準備状況と課題、そして会議で予想される主要議題について、最新情報を交えながら分かりやすく解説します。
アマゾン開催の意義と国際的象徴性
ブラジルのルーラ大統領は、「世界に真のアマゾンを知ってもらう」ためにCOP30をアマゾンに誘致したと述べています。 1 アマゾンは、大量の炭素を吸収する「地球の肺」であると同時に、森林破壊や気候変動による深刻な影響(森林火災や干ばつなど)に直面しています。この地でCOP30を開催することは、森林保全と気候危機の密接な結びつきを国際社会に強く訴えかける絶好の機会です。
また、この会議は2015年のパリ協定採択から10年という節目にあたり、パリ協定の目標(世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする)への再コミットメントを示す重要な場ともなります。 3 各国の現行政策では約2.6℃の温暖化に向かうと試算されており、1.5℃目標達成には排出削減策の大幅な強化が不可欠です。
ブラジル国内での注目と準備状況
COP30開催決定以降、ブラジル国内では会議への関心と準備が急速に進んでいます。連邦政府とパラー州政府は公式SNSアカウント「@cop30naamazonia (森のCOP)」を立ち上げ、ベレン市の準備状況を発信しています。 6 ベレン市内は「巨大な工事現場」と化し、インフラ整備が急ピッチで進められています。
2023年8月には、COP30の予行演習とも言える「アマゾン首脳会議」がベレンで開催され、約27,000人が集まりましたが、宿泊施設不足と宿泊費高騰が課題となりました。 5 COP30本番では7万人超の来訪が見込まれるため、交通、衛生、宿泊施設の確保が急務です。 13 地元では、既存ホテルの改修に加え、ラブホテル約40軒の転用や個人宅の短期貸し出し、アマゾン川クルーズ船の臨時ホテル化などが進められています。 9
しかし、大会期間中の宿泊費高騰は避けられず、一般参加者への負担増が懸念されています。また、COP30準備に伴うインフラ開発が新たな環境破壊を招かないか、市民社会は注視しています。特に、ベレン市南方の保護林地域を貫通する新設道路計画には、環境保護団体から懸念の声が上がっています。 25
ルーラ政権の国家戦略と主要目標
2023年1月に就任したルーラ大統領は、「気候正義(クライメート・ジャスティス)」を政策の柱に据え、COP30誘致に成功しました。 32 前政権下で急増したアマゾンの森林破壊に対し、ルーラ政権は「2030年までに違法な森林破壊ゼロ」を公約し、取り締まりを強化。実際に森林消失率は大幅に減少し、9年ぶりの低水準となるなど成果も報告されています。COP30は、ブラジルの気候変動外交におけるリーダーシップ復権を示す舞台となります。
ルーラ政権がCOP30で掲げる主要目標には、アマゾン保全の国際化、先進国による気候資金拠出の拡充、そして「国連気候変動評議会」の創設提案などがあります。この評議会構想は、各国の気候公約(NDC)の履行を監督・促進する国連レベルの機関を設けるもので、パリ協定10周年に際し気候ガバナンスを刷新する狙いです。また、ブラジルはBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国)議長国として、途上国側の結束を強化し、交渉での発言力を高める方針です。 39 さらに、「気候正義」の観点から、貧困対策や先住民・伝統的コミュニティの権利擁護と気候政策を統合的に進める姿勢も示しています。 40
COP30で予想される主要議題
パリ協定採択10年の節目となるCOP30では、気候変動対策の国際枠組み強化に向けた幅広い議題が討議される見通しです。
- NDC(国が決定する貢献)の更新と1.5℃目標への野心引き上げ: 2025年は各国が次期NDCを提出する目標年であり、COP30では2030年までの削減目標強化が促されます。
- 気候資金: 先進国による年間1000億ドルの途上国支援目標が未達である中、2025年以降の新たな資金目標(NCQG)設定が最大の争点の一つとなります。ブラジルは拠出額の大幅増額と公正な分担を求める立場です。
- 損失と損害(ロス&ダメージ): 気候変動による避けられない被害への支援策として2022年に設立が合意された「損失と損害基金」の本格始動に向けた制度設計や拠出策が詰められます。 45
- 適応策とグローバル目標(GGA): 気候変動の影響への適応強化も重要テーマです。世界的な適応目標(GGA)の設定について合意形成が図られ、適応計画への資金支援や技術移転の加速が議論されます。
- 森林と自然に基づく解決策(NbS)、生物多様性との連携: 開催地アマゾンの特性を活かし、森林保全や生態系を活用した気候変動対策(NbS)が大きく取り上げられるでしょう。ブラジルは自国の森林保護成果をアピールし、国際的な対策強化を求めるとみられます。 47
- 公正な移行(Just Transition)と雇用問題: 化石燃料依存経済から再生可能エネルギー中心経済への移行に伴う社会・雇用への影響への対処策が議論されます。
- 先住民の権利と気候行動への貢献強化: アマゾンに暮らす多くの先住民族の権利強化と、気候変動対策への彼らの知見と参加の拡大が重要な横断的テーマとなります。 49
国内外ステークホルダーの声と反応
COP30を巡っては、国内外の様々な関係者(ステークホルダー)が期待や懸念を表明しています。
- 環境NGO・専門家: ブラジルの主要環境NGO「気候オブザーバトリー」などは、ブラジルのリーダーシップに期待しつつも、化石燃料の段階的廃止という核心的課題への言及が議長声明に欠けていると指摘しています。 48 ルーラ政権のアマゾン沖石油掘削計画にも批判の声が上がっています。
- 先住民団体: ブラジル先住民協会(APIB)などは、COP30を「歴史的転機」と位置づけ、先住民のCOP運営への参画や、化石燃料段階的廃止の明確な工程表策定、先住民コミュニティへの直接的な気候資金拠出などを強く求めています。
- 産業界・農業界: ブラジルの大規模農業セクターは、気候変動の被害者であると同時に、持続可能な農業技術への支援を求めています。 56 一方で、温暖化対策の標的とされることへの警戒感も強く、自国農業の利益保護を政府に訴えています。
- 若者・市民: ブラジルでは若者を中心に草の根の気候運動が盛り上がりを見せており、SNS上でも活発な議論が交わされています。 61 COP30に合わせた市民フォーラムや気候マーチも計画されています。
- 国際社会: EUなどはブラジルの気候協調への復帰を歓迎していますが、米国のパリ協定再離脱などが交渉に影を落とす懸念もあります。 54 63
COP30ベレン会合は、「アマゾンの声」を世界に届け、地球規模の課題に対し包摂的かつ野心的な解決策を見出す重要な機会です。開催に向け、ブラジルは国内外の期待を背負い準備を進めています。この歴史的な会議が、アマゾンから世界へ新たな希望と行動の転換点をもたらすことが期待されます。
参考文献リスト
- Reuters: Brazil says UN confirmed Amazonian city of Belem as COP30 host 1
- Reuters: Love motels and converted ferries: Brazil gets creative to host COP30 9
- Reuters: COP30 Brazilian presidency calls for new global climate governance 3
- Reuters: Amazon summit shows thorny challenge for Brazilian COP30 host city 5
- Agência Pará: Governo do Pará lança redes sociais para informar sobre a COP 30 6
- Agência Pública: COP30: Sociedade planeja ocupar as ruas e pressionar governos 10
- CNN Brasil: CNN na COP30: Belém já tem mais de 36 mil leitos para evento 13
- Reuters: Brazil state hosting COP30 denies new road linked to climate summit 25
- Reuters: Brazilian state to host COP30 climate summit defends gold mining rules 28
- Reuters: COP27: Greeted like a rock star, Brazil’s Lula promises to protect Amazon 32
- Reuters: US exit from Paris climate deal complicates finance targets, says COP30 head 39
- Observatório do Clima: OC | Climate Observatory – Official website 42
- Climate Funds Update: What to expect for the Fund for responding to Loss and Damage in 2025 45
- WWF Brasil: COP 30 46
- Observatório do Clima: COP30 Presidency Letter Inspiring but Excludes Elephant in the Room 48
- COIAB: Indígenas da Amazônia apresentam demandas para a COP30 e reivindicam papel central nas negociações climáticas 49
- COP30 Official Website (Brazil): “COP30 can be an important symbol that multilateralism is alive…” 54
- PENSAR AGRO: Às vésperas da COP30, agronegócio cobra protagonismo e questiona a “Moratória” 56
- Sociedade Nacional de Agricultura: COP 30, que Brasil sediará em 2025, é desafio para o Agro 58
- ClimaInfo: Juventude retoma protestos contra crise climática ao redor do mundo 61
- COP30 Official Website (Brazil): Presidente Lula escolhe a ativista climática Marcele Oliveira como a campeã de juventude da COP 30 62
- Reuters: Brazil taps COP30 head, warns of Trump’s impact on climate talks 63
- Climate Action Network: COP 30 66
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