2025年5月後半のロシア主要ニュース
2025年5月後半のロシアでは、ウクライナ情勢を巡り軍事・外交の両面で大きな動きが相次ぎました。大規模な捕虜交換や和平協議への合意といった緊張緩和の兆しが見える一方で、ロシア領内でのインフラ破壊や大規模なドローン攻撃の応酬など、戦闘は激化の一途をたどっています。本記事では、政治、経済、軍事、社会など各分野における主要な出来事をまとめてお伝えします。
政治・外交
大規模捕虜交換の実施
ロシアとウクライナの間で、戦争開始以来で最大規模となる捕虜交換が実施されました。5月16日にトルコのイスタンブールで行われた両国代表の協議で、それぞれ1000人ずつの捕虜交換に合意しました。 1
この「1000対1000」の交換は5月23日から開始され、2022年2月の侵攻以降で最大規模となります。この合意に基づき、5月下旬にかけて両軍の捕虜が段階的に釈放・移送されました。紛争下で拘束されていた多くの兵士が帰還しました。今回の捕虜交換は、敵対する当事者間の信頼を築く一歩と受け止められています。長期化する戦争の中で、和平への糸口として期待が高まりました。
ロシア・ウクライナ和平協議の第2ラウンド合意
5月末、ロシアとウクライナは停戦に向けた直接交渉を継続することで合意しました。第二回の和平協議は6月2日にトルコのイスタンブールで開催される予定となりました。ウクライナのゼレンスキー大統領は5月31日、国防相ルステム・ウメロフ氏を代表とする交渉団を派遣することを確認しました。 2
これに先立つ第一回協議では、具体的な停戦合意には至りませんでした。しかし、大規模な捕虜交換の実現など一定の進展が見られました。第二回協議では、両国がそれぞれ停戦や和平条件に関する文書を提示する予定です。戦争開始から3年を経て、初めて本格的な和平案が協議される見通しです。ただし、領土問題や安全保障の保証など、両国の溝は依然として深く、完全な停戦合意までの道のりは不透明です。米国の仲介や欧州諸国の支援のもと、6月初旬の協議でどこまで実質的な合意に達するかが注目されています。 3
独首相の長距離ミサイル供与発言とロシアの反発
ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は5月26日、ウクライナへの兵器支援に関して注目すべき発言をしました。ベルリンでのゼレンスキー大統領との記者会見で、「ドイツはウクライナと共同で長射程ミサイルを開発・生産し、射程の制限なく供与する用意がある」と表明しました。 16
この発言に対し、ロシア政府は強く反発しました。ペスコフ大統領報道官は即座に「ドイツ首相の発言は戦争をさらに激化させる『さらなる挑発行為』だ」と非難しました。ロシア側は、NATO(北大西洋条約機構)の主要国であるドイツが射程制限の撤廃に言及したことを「ロシア本土に対する直接的脅威」と捉え、軍事的な警告も発しています。欧州各国からはメルツ首相の発言への賛否が分かれており、長距離ミサイル供与が戦争の段階的な拡大(エスカレーション)につながる恐れも指摘されています。 17
セルビア企業の対ウクライナ弾薬供給をロシアが告発
ロシア対外情報庁(SVR)は5月末、同盟関係にあるセルビアが「裏切り行為」に及んでいると非難する異例の声明を発表しました。 18 SVRは「セルビアの軍需企業がウクライナに弾薬や兵器を販売し、その武器がロシア軍や民間人の殺傷に使われている」と主張しました。友好国セルビアによる「背中からの一刺し」だと表現しました。
SVRによれば、セルビア製の弾薬はチェコやポーランドなどNATO加盟国や一部アフリカ諸国の仲介を通じてウクライナに渡っているとされています。 19 これに対し、セルビアのブチッチ大統領は「我が国は公式には中立を保っており、一部の主張は事実と異なる」と反論しました。 20 両国は共同の調査委員会を設置して事実解明にあたる考えです。セルビアはEU加盟を目指しつつもロシアと歴史的に友好関係にあり、対露制裁には加わっていません。 21 今回の件が事実であれば、両国の関係に影を落とす可能性があります。
軍事・安全保障
ブリャンスク州鉄道橋爆破事故
5月31日夜、ウクライナと国境を接するロシア西部ブリャンスク州で鉄道橋が爆破され、旅客列車が脱線する大惨事が発生しました。 4 モスクワ行きの夜行列車が橋桁の崩落に巻き込まれました。ロシア当局によると、この事件で少なくとも7名が死亡、数十名が負傷しました。 5
同じ夜、隣接するクルスク州でも貨物列車走行中に鉄道橋が爆破され、機関車が脱線しています。 6 ロシア連邦捜査委員会は両方の橋の崩落原因を「爆発によるもの」と断定し、テロ行為の可能性を視野に捜査を開始しました。 7, 8 ウクライナ側は公式な関与を表明していませんが、戦争の影響がロシア国内の安全保障に及んでいることを示す事件となりました。
最大規模のドローン攻撃と応酬
5月末、ロシアとウクライナは双方による無人機(ドローン)を用いた攻撃を激化させました。ウクライナ空軍によると、ロシア軍は5月30日から31日にかけて、これまでで最大数となる合計472機の自爆ドローンをウクライナ全土に向けて発進させました。 9
この攻撃でキーウ市内でも被害が生じ、市民に犠牲者が出ました。一方、ウクライナ側もロシア領内への無人機攻撃を強化しました。ロシア国防省は、国境地帯のクルスク州やブリャンスク州で多数のドローンが飛来し、撃墜されたと発表しました。また、ウクライナ情報機関(SBU)は、ロシア深部の戦略爆撃機基地に対する特殊作戦「クモの巣作戦」の実行を明らかにしました。シベリアの飛行場に駐機していた核搭載可能な長距離爆撃機Tu-95への破壊工作を行ったとされています。 10, 11 この大規模なドローン攻撃の応酬は、和平協議を目前にした戦闘の激化を象徴しています。 12
ロシア軍の前線進展と「13集落解放」発表
ロシア国防省は5月30日、「過去一週間でウクライナ領内の13の集落を解放(奪取)した」と発表しました。 13 同省によれば、ロシア軍はドネツク人民共和国(東部)、ウクライナ北東部スームイ州、ハルキウ州で新たに集落を掌握したと主張しています。 14
これが事実であれば、ロシア軍にとっては半年以上ぶりの大きな前線進展となります。5月単月で約450平方キロの地域を制圧した計算になるとの分析もあります。 15 しかし、ウクライナ側はこの発表を認めておらず、プロパガンダだと非難しています。戦争研究所(ISW)などの第三者機関は、ロシア軍が東部前線で緩やかに前進した可能性は示唆するものの、大規模な戦線崩壊には至っていないと見ています。ロシア側の発表は、自国民向けに戦果を強調する狙いがあるとみられます。
経済・科学技術
OPECプラス、原油増産で合意
ロシアも加盟する産油国協議体「OPECプラス」は5月31日、原油の協調増産に踏み切ることで合意しました。主要8か国は、2025年7月の産油量を日量41万1千バレル引き上げる決定を下しました。 22
この増産は、世界的な石油需要の堅調さを見据えた戦略的な措置です。背景には、主導国であるサウジアラビアとロシアが市場シェアの奪還を図る狙いがあると指摘されています。 23 増産決定を受け、原油価格は一時的に持ち直したものの、依然として1バレル60ドル台に留まっています。価格維持よりも生産量拡大による収入確保を優先した動きとみられています。ロシアにとっても、この増産は経済制裁下で縮小した市場を取り戻す意図があると考えられます。
ロシア軍事衛星「コスモス2588号」と対衛星兵器疑惑
ロシア国防省は5月23日、軍事目的の人工衛星「コスモス2588号」の打ち上げに成功しました。アメリカ宇宙軍(USSPACECOM)の追跡によれば、この衛星は米国政府の偵察衛星に極めて近い軌道をとっています。 24
この動きに対し、米軍当局者は「ロシアの近年のコスモス衛星は、他国衛星に随伴する『共軌道型対衛星攻撃兵器(ASAT)』である疑いが強まった」と指摘しました。ロシア側は「宇宙空間の状況監視」だと主張していますが、西側の専門家は「必要時に敵衛星を攻撃できる待機型の兵器ではないか」と分析しています。 25, 26 この衛星打ち上げにより、米露間の宇宙空間における安全保障競争が一段と緊迫化しました。
核ミサイルサイロ近代化計画の機密流出が発覚
デンマークの調査報道機関とドイツの雑誌が5月28日、ロシアの核兵器関連施設の詳細な設計図が大量に流出していると報じました。 27 報道によると、ロシアが進める戦略核ミサイルを収容する地下サイロ施設の近代化に関する機密文書が、インターネット上の入札資料として閲覧可能な状態になっていたことが判明しました。
流出した資料からは、複数の核施設で老朽化したサイロを建て替える工事が進んでいる実態が浮き彫りになりました。 28, 29 設計図には監視カメラの配置や地下トンネルの構造、弾薬庫の詳細まで記されており 30, 31、ロシアの核施設の脆弱性が露呈した形です。 32, 33 専門家は「ロシア当局にとって看過できない失態であり、設計変更などの対策を迫られるだろう」と指摘しています。 34
参考文献:引用文献
- ロシアとウクライナ、各1000人の捕虜交換で合意とウクライナ国防相が発表 (ロイター)
- ロシアとウクライナ、和平協議を前に戦争を激化 (ロイター)
- ロシアの列車が干渉後に崩落した橋に衝突し死者 (ガーディアン)
- 2025年5月26日から30日までの週の主要ニュース (Mail.ru)
- ロシア連邦軍、1週間で13の入植地を解放 (Mail.ru)
- トランプ氏とメルツ氏、貿易、NATO支出、ロシアのウクライナ戦争について協議 (アルジャジーラ)
- セルビア、ウクライナに武器を輸送しているとのロシアの非難を調査すると発表 (ロイター)
- サイトマップ (ロイター)
- OPEC+の産油国、7月の大幅増産で合意 (ロイター)
- ロシアの新しいコスモス衛星が米国の衛星近くを周回し、ASATへの懸念を煽る (Breaking Defense)
- 閉ざされた防爆扉の向こう側:デンマークとドイツのジャーナリストが、ロシアの核兵器サイロ内部の前例のない詳細な設計図を暴く (Meduza)
- 深刻なセキュリティ侵害:ロシアの核施設がオンラインで暴露される (Danwatch)
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