2025年5月後半のアメリカ国内主要ニュース
ラシュディ刺傷犯に25年の実刑判決
2025年5月16日、著名作家サルマン・ラシュディ氏を講演中に襲撃し重傷を負わせた犯人ハディ・マター被告(当時27歳)に対し、ニューヨーク州の裁判所は25年の禁錮刑を言い渡しました。 1, 2 この襲撃(2022年発生)でラシュディ氏は片眼の視力を失う重傷を負っており 3、国際的な自由言論の象徴に対する暴力として大きな波紋を広げました。
判決は被告に科せられる最高刑でした。ラシュディ氏本人も証言台に立つなど審理は白熱しました。事件後、表現の自由を支持する世論が改めて高まる一方、同様の暴力に対する警戒も強まっています。裁判所の断固とした判決によって、関係者はひとまずの区切りがついたと受け止めています。
ラスベガスのスポーツジムで銃乱射事件
2025年5月16日、ネバダ州ラスベガスのフィットネスジムで銃撃事件が発生しました。現場で従業員1名が犠牲となり、3名が重傷を負いました。 4 容疑者の男(34歳)は銃を乱射中に銃器が故障したため、さらに大規模な被害には至りませんでした。ジムから出てきたところを警官により射殺されました。
警察は、銃の作動不良が「大量殺害事件になるのを防いだ」と述べています。利用客らは一時パニックに陥りました。本事件は全米で後を絶たない銃乱射問題を浮き彫りにしています。実際、2025年中に米国で発生した「四人以上が死傷する銃乱射」は5月末時点で169件(死者216人、負傷者643人)に上ります。 5 安全対策を求める声が改めて高まっています。
カリフォルニアの不妊治療クリニックで爆弾テロ
2025年5月17日、カリフォルニア州パームスプリングスの不妊治療クリニック前で車爆弾が爆発しました。犯人本人が死亡し、付近にいた4人が負傷する事件が起きました。犯人は25歳の男で、自称「プロモータリスト(出産否定主義者)」という極端な思想の持ち主でした。
捜査当局によれば、犯人は「人は本人の同意なく生まれるべきではない」との過激な信条に基づき犯行に及んだとされています。事件後FBI(連邦捜査局)が共犯者の追跡を進め、6月初頭には協力者とされる男を欧州で逮捕しました。 6, 7 生殖医療施設を狙った異例のテロに、市民や医療関係者には衝撃と不安が広がっています。当局は動機となった過激思想の実態解明と再発防止に努める方針です。
ワシントンD.C.でイスラエル大使館職員射殺事件
2025年5月21日、ワシントンD.C.市内のユダヤ系博物館付近で、在米イスラエル大使館に勤務する若いカップル(それぞれ30歳と26歳)が銃撃され死亡する事件が発生しました。 8, 9 容疑者の米国人の男(31歳)は現場で逮捕されました。「パレスチナのためにやった」と叫んで抵抗し、捜査当局はヘイトクライム(憎悪犯罪)およびテロ行為として捜査を進めています。
亡くなった2人は近く婚約予定の同僚同士で、中東和平に尽力していた人物でした。 10 事件は反ユダヤ主義に基づく犯行として各方面から強く非難されました。直後に在外イスラエル公館の警備レベルが引き上げられました。米司法省は容疑者を連邦法の「外国公務員殺害」など複数の罪で起訴し、死刑適用も排除しない方針です。在米ユダヤ人社会からは不安と怒りの声が上がっており、当局は宗教施設や外交施設の警備強化を図っています。
バイデン前大統領、進行がん公表
2025年5月18日、ジョー・バイデン前大統領(82歳)が、骨への転移を伴う進行性の前立腺がんと診断されたことを公表しました。 11 17日に尿の症状を訴えて検査を受け判明したものです。「攻撃的なタイプのがん」ながらもホルモン療法が奏功するタイプであるため、医師団と治療方針を協議中としています。 12
バイデン氏はSNSで「家族とともに最善を尽くす。皆さんの支えに感謝する」と述べ、楽観的な姿勢を示しました。また政界からも与野党問わず早期回復を願う声が寄せられました。トランプ大統領も自身のSNSに「バイデン夫妻にお見舞い申し上げる」と投稿しています。 13 高齢のバイデン氏は2024年大統領選への出馬を途中で断念した経緯があり、体調問題が再び注目されています。専門家は、ホルモン感受性である点を踏まえ「治療による病状管理は十分可能」との見方を示しています。
最高裁、数十万人規模の移民保護解除を容認
2025年5月29日、米連邦最高裁判所は、トランプ政権が進める一時保護身分(TPS:Temporary Protected Status)の剥奪措置について、その差し止めを撤回し執行を認める判断を示しました。 14 対象となるのはベネズエラやキューバ、ハイチ、ニカラグア出身者ら計約53万人に上ります。オバマ・バイデン政権下で与えられていた人道的保護資格が失われることになります。
この決定により、これらの移民は強制送還のリスクに直面することになります。人権団体や在米移民コミュニティは「何十年も米国に根差して生活してきた人々を突然追放すれば家族や地域社会に深刻な打撃を与える」と強く反発しています。裁判所の命令は下級審での審理が続く間の一時的な措置ですが 15、強硬な移民政策を掲げるトランプ政権に追い風となりました。今後、議会や司法の場で移民救済措置の行方を巡る攻防が続く見通しです。
ミズーリ州、中絶禁止法の執行を再開へ
2025年5月27日、ミズーリ州最高裁判所は、同州で成立していた中絶禁止法(妊娠例外を除き中絶を禁止)について、一時的に執行を差し止めていた下級審の仮処分を取り消すよう命じました。 16 これにより州内の中絶クリニックは直ちに妊娠中絶の提供を停止せざるを得なくなりました。唯一営業していた施設も予約をキャンセルすると発表しました。 17
同州では前年11月の住民投票で妊娠中絶の権利を州憲法に明記する改正案が可決され、中絶禁止法の施行が事実上凍結されていました。しかし今回の決定は、その改正案の法的妥当性に疑義を呈する形で州政府が執行再開を求めていた訴訟で下されたものです。中絶容認派は「有権者の意思を覆す暴挙」と強く反発しています。プランド・ペアレントフッド(計画家族連盟:性と生殖に関する医療サービスを提供する非営利団体)は再び法廷闘争に臨む構えです。 18, 19 一方、州当局は「有権者投票で成立した憲法改正案は法技術的に不備がある」と主張しています。今後も司法判断の行方によって州内の中絶アクセスは流動的な状況が続きそうです。
下院、トランプ政権の大型予算法案を可決
2025年5月22日、下院はトランプ大統領が掲げる包括的予算法案、通称「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル法(One Big Beautiful Bill Act)」を辛くも可決しました。 20 採決は与党共和党内の造反で僅差の215対214となり、わずか1票差での成立でした。同法案は富裕層減税や生活保護費の大幅削減が柱です。メディケイド(低所得者向け医療保険制度)やフードスタンプ(食料費補助プログラム)への支出圧縮が盛り込まれています。 21
さらに全1100ページ超の法案には移民規制の強化、人工知能(AI)産業振興策、そして政府当局者が裁判所命令を無視しても罰せられないよう裁判所の権限を制限する条項まで含まれています。「トランプ大統領を文字通り『王』にする法案だ」との批判も招いています。 22 法案成立を受けホワイトハウスは「減税と規制緩和で米国経済に黄金時代をもたらす」と称賛しました。しかし、野党民主党は弱者切り捨てだと猛反発しています。今後、上院での審議・採決が控えており、共和党内の慎重論も根強いことから法案の行方は依然不透明です。
南ア大統領訪米も「白人虐殺」発言で緊張
2025年5月21日、南アフリカ共和国のシリル・ラマポーザ大統領がホワイトハウスでトランプ大統領と会談しました。しかし、席上トランプ氏が南ア国内で「白人農民に対する虐殺(ジェノサイド)が起きている」との根拠のない動画や主張を突如持ち出しました。 23 会談は一時険悪な雰囲気に包まれました。
トランプ氏の発言は白人至上主義者らが流布する陰謀論をなぞったものでした。南ア政府や専門家は「白人が組織的に迫害されている事実はない」と即座に否定しています。 24 ラマポーザ大統領は人種間融和政策を進める立場から反論しました。同席した南ア側要人も誤情報だと訂正を求めたものの、トランプ氏は持論を展開し続けたと報じられました。南ア側は本来、対米関係の修復と貿易協力を期待しての訪問でした。 25 しかし、このやり取りにより両国間の溝が改めて浮き彫りとなった形です。南ア国内では「トランプ氏は事実無根の『白人被害』を煽っている」と反発する声が上がっています。米政府の外交姿勢を疑問視する論調も見られます。専門家は、今回の会談は米南ア関係の改善どころか、人種問題を巡る緊張を一段と高める結果になったと指摘しています。
イーロン・マスク、政権の職務を電撃辞任
2025年5月28日、実業家イーロン・マスク氏が、トランプ政権で特別職「政府効率化局(DOGE:Department of Government Efficiency)」トップとして進めてきた行政府改革プロジェクトからの辞任を表明しました。ホワイトハウスは28日深夜「マスク氏のオフボーディング(離任手続き)を開始した」と発表し 26、約130日に及んだ異色の政府勤務に幕が下ろされました。
マスク氏は各省庁の大胆な人員削減などを主導しました。しかし、目標としていた巨額の歳出削減の達成には至りませんでした。辞任の直接の契機は、マスク氏が前日にトランプ政権の目玉である大型減税・予算法案を「支出が嵩みすぎだ。このままでは我々の効率化の努力が水泡に帰す」と公然と批判したことにあるとされています。 27 この発言に政権中枢が猛反発し、トランプ大統領自身が上院共和党に法案支持を再確認する事態となりました。 28
辞任発表に際しマスク氏はSNS上でトランプ大統領に謝意を示しました。しかし、政権内部では「マスク氏の独走に歯止めが利かなくなっていた」との声も漏れています。政府効率化局の取組は継続するとされていますが 29、カリスマ的なマスク氏不在で推進力低下は避けられません。政権の統治手法にも影響が及ぶとの見方があります。
中国人留学生ビザ取り消しと名門大学への介入
2025年5月22日、米政府が国家安全保障上の懸念から中国人留学生への締め付けを強めています。マルコ・ルビオ国務長官はこの週、「一部の中国人留学生のビザを取り消し、帰国させる措置に着手する」と発表しました。 30 同時にトランプ政権はハーバード大学に対し、新規の外国人留学生受け入れを即時停止し在籍中の留学生も他校へ転籍させるよう命令を出しました。しかし、これは直ちに連邦判事によって差し止められました。 31
政権は中国当局によるスパイ活動や知的財産窃取への対抗措置だと主張しています。しかし大学関係者や専門家は「根拠が薄弱な一律措置は学問の自由や米国の国際的地位を損なう」と懸念を表明しています。実際、この種の包括的介入は前例がなく、全米の大学は対応に追われました。法廷闘争に発展したハーバード留学生問題は今後も継続審理中です。政権の強硬姿勢と教育・研究コミュニティの衝突は避けられない見通しです。米中関係の悪化が学術交流にも影を落とす中、留学生の安全や研究への影響を注視する必要があります。
環境規制の大幅撤廃、健康への影響懸念
2025年5月下旬から6月初旬にかけて、トランプ政権のリー・ゼルディンEPA(環境保護局)局長は、大気汚染物質や水質規制、気候変動対策など少なくとも30本の主要な環境規則を撤回・緩和する計画を打ち出しました。 32 EPA自身の分析によれば、対象の環境規制を完全に撤廃すると年間約2,750億ドルのコスト削減になります。しかし、同時に大気汚染の悪化などで毎年3万人以上の早死を防げなくなると試算されています。 33
この大胆な規制緩和策に対し、環境団体や公衆衛生の専門家は「短期的な経済利益を優先し、国民の生命と健康を犠牲にするものだ」と強く反発しています。いくつかの新規則はまだ施行前であり、連邦の手続き上すぐ撤廃できるわけではありません。そのため、今後施行差し止めを求める訴訟も相次ぐ見通しです。 34, 35 バイデン前政権時に制定された温暖化対策や排出基準も軒並み見直し対象となっています。米国の環境政策は大きな転換点を迎えています。環境保護と経済成長のバランスを巡る議論は一段と激化し、州政府や企業の自主的取り組みの重要性も増すでしょう。
参考文献:引用文献
- サルマン・ラシュディ氏を刺した男に懲役25年の判決 (ガーディアン)
- ラスベガスのジム銃撃事件の犯人についてわかっていること (Fox5 Vegas)
- 2025年のアメリカ合衆国における銃乱射事件リスト (Wikipedia)
- パームスプリングス不妊治療クリニック爆破事件の容疑者、JFK空港でFBIに逮捕 (CBS News)
- ワシントンDCでイスラエル大使館職員2名が射殺された事件の容疑者を殺人罪で起訴 (ロイター)
- バイデン前米大統領、「攻撃的な」前立腺がんと診断 (ロイター)
- 最高裁、ホワイトハウスによる多くの移民の一時保護資格取り消しを許可 (ガーディアン)
- ミズーリ州最高裁、州内の中絶を停止 (Axios)
- 『If You Can Keep It』:予算法案の細目 (NPR)
- トランプ氏、南アフリカのラマポーザ大統領に白人虐殺の虚偽主張で対抗 (ロイター)
- イーロン・マスク氏、トランプ政権を去る 波乱に満ちた任期に幕 (ロイター)
- 2025年のアメリカ合衆国 (Wikipedia)
- 2025年5月30日のニュースまとめ (NPR)
- AP通信の調査結果:トランプ政権EPAが変更を望む規則の利益とコスト (Winnipeg Free Press)
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