中東

イスラエルの対イラン空爆「ライジング・ライオン作戦」の経緯【Operation Rising Lion】

イスラエルの対イラン空爆「ライジング・ライオン作戦」:経緯と国際社会の反応

2025年6月13日未明、イスラエルは「Operation Rising Lion」と名付けられた大規模な空爆作戦を開始し、イラン国内の核施設や軍事拠点を攻撃しました。イスラエルは「国家存続に関わる差し迫った核の脅威への先制自衛」と主張しています。攻撃の主要標的はナタンズ核施設やイラン革命防衛隊(IRGC)本部で、IRGCのサラミ司令官を含む軍高官や核科学者数名が死亡しました。民間人にも死傷者が出ています。

イランは激しく反発し、「イスラエルは厳しい代償を払う」と全面的な報復を宣言。弾道ミサイル部隊の展開や、レバノンのヒズボラなど親イラン勢力による報復行動も警告しています。

国際社会の反応は複雑です。米国は攻撃への関与を否定しつつ、イランに対し自制を求めました。ロシアと中国はイスラエルを批判し、EUも武力行使を非難しながら双方に外交解決を呼び掛けています。アラブ諸国は非難や沈黙など対応が分かれましたが、地域全体の不安定化を懸念しています。

経済的影響も大きく、原油価格が急騰し、市場が混乱。航空各社はイラン領空を避ける措置を取っており、中東への渡航は各国が制限を始めています。

国際法的には今回の攻撃を「予防的自衛」として正当化するイスラエルの論理に対し、厳しい批判が多く、合法性に疑問符がついています。国連安保理では非難決議を巡って議論が紛糾中ですが、明確な結論には至っていません。

今後、イランの報復による軍事衝突拡大のリスクが高く、中東情勢は重大な局面を迎えています。

作戦の概要:イラン核施設への精密攻撃

2025年6月13日未明、イスラエル国防軍(IDF)は、イランの核兵器開発を阻止する目的で大規模な空爆作戦「ライジング・ライオン(Operation Rising Lion)」を開始しました。 1 イスラエル政府は、この攻撃を「国家存続への明白かつ現在進行形の危機」に対する自衛のための先制的措置であると正当化しています。この軍事行動は、中東地域に深刻な緊張をもたらし、国際社会に大きな衝撃を与えました。本稿では、作戦の経緯から被害状況、各国の反応、そして国際法上の論点までを詳細に解説します。

イスラエルのネタニヤフ首相はテレビ演説で作戦開始を宣言し、「脅威が取り除かれるまで作戦を必要な日数だけ継続する」と述べました。イスラエル空軍は、数十機規模の戦闘機群を投入し、イラン国内の複数の核関連施設や軍事拠点を含む「数十の目標」に対して空爆を実施しました。 2

主要な標的は以下の通りです。

  • イラン中部の主要なウラン濃縮施設であるナタンズ核施設
  • 首都テヘランにあるイスラム革命防衛隊(IRGC)本部
  • 弾道ミサイルの開発工場

攻撃には、戦闘機による精密誘導爆弾の投下に加え、イランの防空網に対するサイバー攻撃や内部工作も含まれていたと報じられています。 3 作戦開始と同時に、イスラエル全土で非常事態宣言が発令され、市民のスマートフォンにも一斉に警報が通知されました。

被害状況:軍司令官死亡、民間人にも犠牲者

今回の空爆により、イラン側では人的・物的に甚大な被害が出ています。

民間人への被害
テヘラン市内では、住宅街への着弾により建物が破壊され、少なくとも民間人5人が死亡、20人が負傷しました。犠牲者には女性や子どもも含まれています。 4
軍・政府要人
テヘランの革命防衛隊本部が直撃を受け、ホセイン・サラミ司令官が死亡したと伝えられました。 5 イラン軍の参謀総長を含む複数の高官も死亡した可能性が指摘されています。 6 最高指導者ハメネイ師は無事ですが、側近のアリ・シャムハニ師は重傷を負ったとされています。
核関連施設
ナタンズ核施設では複数回の爆発が確認され、黒煙が立ち上りました。また、イランの核開発に関与していた核科学者2名が殺害されたことも報告されています。国際原子力機関(IAEA)は、ナタンズ核施設が攻撃を受けたことを確認し、放射線レベルの監視を開始しています。 7

一方、イスラエル側には、現時点で目立った人的・物的損害は報告されていません。

イランの反応:最高指導者が「厳しい処罰」を警告

イラン指導部は、この攻撃に対し直ちに強い怒りを示し、断固たる報復を宣言しました。最高指導者アリー・ハメネイ師は、「シオニスト政権(イスラエル)は厳しい処罰を受けることになる」と警告する声明を発表しました。 8

イブラヒム・ライシ大統領もテレビ演説で、「イスラエルの犯罪的侵略は国家主権への侵害であり、決して容認できない。我々は適切な時と場所で厳しい報いを与える」と述べました。革命防衛隊(IRGC)は全面的な報復作戦の準備に入ったとされ、報道官は「イスラエルだけでなく、その後ろ盾であるアメリカも重い代償を支払うことになる」と警告しています。

イランは国連安全保障理事会に対し、国連憲章第51条に基づく自衛権を行使する権利があると主張。 9 また、米国との核協議については「もはや協議する状況ではない」として、事実上の中断を示唆しています。 10

国際社会の反応:自制を求める声と各国の思惑

この直接的な軍事衝突に対し、世界各国から様々な反応が寄せられています。

アメリカ合衆国
米国政府は「今回の攻撃に米国は関与していない」と明言し、イスラエルによる単独行動であることを強調しました。 11 トランプ大統領(当時)は、中東情勢が「非常に危険な状況に陥りかねない」と警告しつつも、イスラエルへの軍事支援については明言を避けました。
ロシア・中国
ロシアと中国は共に強い懸念を表明し、関係当事者に最大限の自制を求めました。ロシアのプーチン大統領はイランのライシ大統領と電話会談を行い、対話による解決を促しました。 12 中国外務省も「力による解決ではなく、外交的解決こそが唯一の道だ」と強調しています。 13
欧州連合(EU)
EUは「地域のさらなる軍事エスカレーションを深く憂慮する」との声明を発表。フランスのマクロン大統領やドイツのショルツ首相も、外交的解決への努力を再開すべきだと呼びかけました。 14
中東・アラブ諸国
イランと友好関係にあるシリアやレバノンのヒズボラは、イスラエルを強く非難しました。一方、サウジアラビアやUAEなどの湾岸アラブ諸国は、公式には「深い憂慮」を表明するに留め、直接的な非難は避けています。 15

国連の動向と国際法上の評価

国連のグテーレス事務総長は、民間人に犠牲者が出ていることを強く非難し、双方に即時の敵対行為停止を求めました。国連安全保障理事会では緊急会合が開かれましたが、常任理事国である米英と中ロの意見が対立し、統一した対応は困難な状況です。

空爆の法的正当性という大きな論点

今回のイスラエルの攻撃は、国際法上、正当化されるのでしょうか。イスラエルは、国連憲章第51条に定められた「自衛権」を根拠に、イランの核開発という「差し迫った脅威」に対する先制攻撃だったと主張しています。これは、1981年にイラクの原子炉を空爆した際にも用いられた論理です。 16

しかし、国際法の一般的な解釈では、このような予防的な先制攻撃は違法とされています。自衛権の行使が認められるのは、原則として「武力攻撃が発生した場合」に限られます。 17 イランの核開発が、直ちにイスラエルへの攻撃に繋がる「切迫した脅威」であったかについては、多くの専門家が否定的な見解を示しています。イランの核開発計画そのものを「武力攻撃の発生」と見なすイスラエルの主張は、国際社会の多数派の支持を得られていません。 18

また、国際人道法では、軍事目標と民間人を明確に区別すること(識別性の原則)や、軍事行動がもたらす付随的な損害が、期待される軍事的利益と比較して過大であってはならないこと(比例原則)が定められています。テヘランの住宅街に被害が及び、民間人に死傷者が出たことは、これらの原則に違反する可能性を指摘されています。

軍事的・経済的影響

今回の空爆により、中東地域の緊張は一気に高まりました。イランは報復を示唆しており、イスラエルも防空システムを最大警戒モードに移行させるなど、全面戦争に発展するリスクも懸念されます。 19

経済面では、原油価格が急騰し、5か月ぶりの高値水準に達しました。 20 イランが報復としてホルムズ海峡を封鎖した場合、世界の原油供給に深刻な影響が及ぶ恐れがあります。世界の株式市場も軒並み下落しており、世界経済への悪影響が懸念されています。

民間航空にも影響が出ています。イランは国内の空港を一時閉鎖し、各国の航空会社はイラン上空を避けるルートへの変更を余儀なくされています。 21

結論として、イスラエルによる対イラン空爆は、国際法上の正当性に多くの疑問符がつく行為であり、中東地域を極めて危険な状況に陥れています。国際社会は、外交努力による事態の鎮静化を急ぐ必要があります。今後の両国の動向、そして関係各国の対応が、地域の平和と安定の行方を左右することは間違いありません。

参考文献:引用文献

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