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2025年 カナダ カナナスキスG7サミット情報【2025年6月16日】

2025年G7カナナスキス・サミット詳報:トランプ政権復帰で揺れる結束、中東・ウクライナ情勢への対応は

2025年6月15日から16日にかけて、カナダのアルバータ州カナナスキスで主要7カ国(G7)首脳会議が開催されました。ドナルド・トランプ米大統領の復帰後初となるこのサミットは、G7の結束が試される極めて重要な会議となりました。緊迫する中東情勢や長期化するウクライナ戦争、そして米国の保護主義的な通商政策など、山積する課題に各国首脳がどのように向き合ったのか。その詳細を報告します。

サミットの経緯(6月15日~16日)

サミット開幕前日の15日、各国首脳が現地入りしました。開催国であるカナダのカーニー首相は、英国のスターマー首相と会談し、デジタル貿易や重要鉱物、AI分野での新たなパートナーシップを締結しました。 1

日本の石破茂首相は出発前、イスラエルによる対イラン攻撃を強く非難し、サミットで事態の悪化防止を協議する考えを示しました。 2 一方、米国のトランプ大統領は、イスラエルへの明確な非難を避けつつ、「今は取引の時だ」と停戦交渉の必要性に言及しました。 3

今回のサミットでは、トランプ政権に配慮し、2007年以来初めてとなる包括的な首脳共同声明(コミュニケ)の採択が見送られる方針となりました。 4 代わりに、AIや重要鉱物など、テーマ別の共同文書をまとめる方向で調整が進められました。

16日のサミット初日は、議長のカーニー首相が「世界の安全保障」を主要議題に掲げ、特に緊迫するイスラエル・イラン間の軍事衝突への対応が緊急討議されました。 5 また、会場周辺では、数百人規模の市民が反トランプなどを掲げて抗議デモを行いました。 6

主な議題別の討議状況

中東情勢:イスラエルとイランの軍事衝突問題

今サミット最大の緊急課題は、イスラエルとイランの軍事衝突でした。戦火の拡大は世界経済にも深刻な影響を及ぼすため、G7として早期の沈静化に向けたメッセージの発出が求められました。しかし、各国の対応には温度差が見られました。 7

トランプ米大統領はイスラエルの自制を求める姿勢を示さず、日本の石破首相はイスラエルの先制攻撃をG7首脳で最も厳しい表現で非難しました。欧州各国は、イスラエルの自衛権を支持しつつも、外交的解決の重要性を強調しました。初日の討議では、「イランに対し緊張緩和を求める共同声明」の発表で大筋合意しましたが、イスラエルへの直接的な批判は盛り込まれない見通しとなりました。

ウクライナ情勢と対ロシア制裁

ウクライナ問題では、2日目にゼレンスキー大統領を招いて協議が行われる予定です。G7は「ウクライナ支援と制裁継続」で一致していますが、その裏では米国と欧州の間に方針のギャップが指摘されています。

欧州諸国が長期的な制裁と支援を断固として続ける立場であるのに対し、トランプ米大統領は「早期停戦」を重視し、ウクライナ側に領土割譲を含む妥協を迫る可能性が懸念されています。 8 このため、ウクライナ問題に関する包括的な首脳声明は見送られ、各国が個別で支援を表明する形が検討されています。

米中貿易・高関税問題

トランプ政権による高関税政策も重要なテーマです。米国は自動車や鉄鋼製品に関税引き上げを発動しており、カナダ、EU、日本などは大きな打撃を受けています。 9 各国首脳は、追加関税を回避すべく、サミットに合わせてトランプ氏との個別交渉に臨みました。 10

日本やEUは、米国との正面衝突を避け、個別での妥協を探る現実的な対応を取りました。一方で、英国とカナダは米国を除く形で新たな自由貿易の枠組みに合意し、対米依存を減らす協調を模索しています。¹ G7としては「経済的威圧への反対」といった表現で中国を牽制する方向ですが、その表現の強さを巡っても米欧日には温度差があります。

エネルギー安全保障

中東危機による原油供給不安が広がる中、エネルギー市場の安定化策とクリーンエネルギーへの移行が議論されました。G7各国は戦略石油備蓄の共同放出や産油国への増産働きかけなどを協議しました。また、ロシア産エネルギーへの依存を低減し、再生可能エネルギーや原子力を推進する方針も確認されました。 11

人工知能(AI)の活用と規制

急速に発展するAIのガバナンスも主要議題となりました。各国首脳は「信頼できるAI」の国際的なルール作りで連携することに合意する見通しです。この分野では比較的G7の足並みは揃っており、トランプ政権も対中競争の観点から一定の規制には前向きです。サミットの協調成果としてアピールされる見込みです。

気候変動問題

気候変動は、トランプ政権との隔たりが大きく、G7として統一した強いメッセージを出すのが困難なテーマとなりました。欧州や日本、カナダは2030年の削減目標などを確認したい意向でしたが、米国の不同意により、包括的な気候変動に関する章は首脳文書から切り離される方向です。 12

各国首脳の発言・立場

アメリカ合衆国(ドナルド・トランプ大統領)

「アメリカ第一主義」を掲げるトランプ大統領は、国際協調よりも二国間での取引を重視する姿勢を鮮明にしました。中東情勢ではイスラエル寄りの立場を崩さず、ウクライナ問題では早期停戦を主張。貿易問題では高関税を武器に各国に譲歩を迫るなど、G7の議論を主導、あるいは翻弄しました。その姿勢は、他のG6(米国を除く6カ国)との間に明確な対立軸を生み出しました。

日本(石破茂首相)

初のG7サミット参加となった石破首相は、「G7の結束維持」を最優先に掲げました。 13 トランプ大統領との信頼構築に努める一方、中東情勢ではイスラエル攻撃を明確に批判し、G7内でのバランス役としての存在感を示しました。国内の政治基盤が脆弱な中、外交での失点を避け、安全保障の専門家としての知見を活かそうと努めました。

欧州連合(EU)

EUは「国際秩序と多国間主義の擁護」という基本姿勢のもと、米国と対立するテーマでは現実的な対応を取りました。気候変動や貿易問題で米国に譲歩しつつも、対ロシア制裁では一貫して強硬な立場を主導しました。トランプ政権に引きずられる形でG7が弱体化することへの強い警戒感がうかがえました。

ドイツ(フリードリヒ・メルツ首相)

新首相として初参加したメルツ氏は、伝統的な米欧同盟の重視と、軍事力を含む現実主義的な外交を掲げました。 14 中東情勢ではイスラエルの権利を強く擁護し、ウクライナ問題ではロシアに強硬な姿勢を明確にしました。トランプ政権に対しても、欧州の原則を毅然と主張する役割を担いました。

フランス(エマニュエル・マクロン大統領)

G7での経験が豊富なマクロン大統領は、「欧州の戦略的自律」を滲ませつつ、多国間主義を擁護しました。米国の単独行動、特にトランプ氏とプーチン氏の接近には公然と釘を刺し、G7の理念を守る調停役としての姿勢をアピールしました。

韓国(李在明大統領)※招待国

就任後初の国際デビューとなった李大統領は、「実利外交」を掲げ、エネルギー安全保障とAI技術戦略をテーマに韓国の国際貢献をアピールしました。¹¹ 同盟国との協調を優先しつつも、中国との関係悪化は慎重に避けるなど、バランスの取れた外交姿勢を示しました。

ウクライナ(ウォロディミル・ゼレンスキー大統領)※招待国

ゼレンスキー大統領の最優先目的は、G7による軍事・財政支援の継続を確約させることです。特に支援縮小の懸念があるトランプ大統領に対し、支援の重要性を直接訴えることが最大の焦点となりました。性急な停戦は受け入れない姿勢を改めて鮮明にする見込みです。

今後の展開予測と合意文書の見通し

サミットは、包括的な首脳宣言を見送り、議長総括と6〜7本のテーマ別共同声明を成果文書として公表する見通しです。中東情勢に関する特別声明や、ウクライナ支援、経済安全保障、AIに関する共同声明などが盛り込まれるとみられています。

今回のサミットは、G7の結束に課題を残したものの、大きな決裂は避けられたとの見方が有力です。⁵ しかし、共同宣言の見送りは、G7の求心力低下を示す前例となる可能性もあります。専門家は「成功だったかどうかは、トランプ氏が各国の協調にヒビを入れる行動に出なかったか次第」と指摘しており、G7は今後も「G6対1」という構図の中で、難しい舵取りを迫られることになりそうです。 15


参考文献:引用文献

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