北米地方

テキサス州を襲った電力網障害:大停電レポート(2025年5月下旬)

テキサス州を襲った大停電:電力網の課題と私たちの生活への影響

2025年5月末、アメリカのテキサス州は激しい嵐に見舞われ、大規模な停電が発生しました。この停電は、私たちの生活に欠かせない電力の安定供給について、改めて多くの課題を浮き彫りにしました。この記事では、なぜテキサス州で大規模な停電が起きたのか、そして今後どのような対策が必要なのかを、分かりやすく解説します。

嵐が引き金となった大停電、100万世帯以上に影響

2025年5月下旬、テキサス州の北部や東部を中心に強力な嵐が相次いで発生し、送電線が倒れたり、洪水によって設備が損傷したりする被害が広がりました。 1 特に5月27日から28日にかけては、ダラス都市圏やヒューストン周辺で被害が深刻で、州全体で一時100万世帯以上が停電に見舞われました。 2 停電の主な原因は、最大風速約130km/hもの暴風による送電設備の物理的な破損であり、電力の需要が供給を上回ったわけではありませんでした。テキサス州の電力網を管理・運用するERCOT(テキサス州電気信頼性評議会)は、この期間も電力供給には余裕がある「通常運転」状態だったと発表しています。しかし、一部地域では復旧に数日を要し、住民は猛暑の中で不自由な生活を強いられました。

テキサス電力網の「独立性」とその課題

テキサス州の電力網は、他の州とはほとんど繋がっていない「独立した電力網(ERCOT管内)」として運用されているという大きな特徴があります。 3 これには、州内で電力不足が起きても他の州から大規模な電力融通を受けにくいという弱点がある一方で、他の州で起きた大規模停電の影響がテキサス州に及びにくいという利点もあります。

2021年2月には、記録的な寒波によって発電所の設備が凍結し、大規模な停電が発生しました(テキサス寒波危機)。この時は約400万人が影響を受け、200人以上が亡くなるという深刻な事態となりました。この教訓から、テキサス州は発電所の耐寒性を強化するなどの対策を進めてきました。 4

しかし、今回の停電は、発電能力の問題ではなく、送電線や電柱といった「送配電インフラ」の脆弱性が原因でした。専門家は、「いくら発電能力に余裕があっても、強風で木が倒れれば送電線は切れてしまう」と指摘しており、送配電網の強化が急務となっています。

停電が市民生活と経済に与えた深刻な影響

長時間の停電は、市民生活に大きな混乱をもたらしました。冷蔵庫が使えず食料の確保が難しくなったり、医療機器に頼る患者が非常用電源でしのいだりする事態が発生しました。 5 信号機も停止し、交通にも影響が出ました。経済面では、多くの店やガソリンスタンドが営業を停止せざるを得なくなり、ダラス・フォートワース空港では約500便が欠航するなど、物流にも支障をきたしました。さらに、停電当日は選挙の投票日と重なり、一部の投票所が閉鎖されたため投票時間が延長される措置も取られました。

SNSでは、「#TexasBlackout」といったハッシュタグと共に、電力会社や当局への不満や怒りの声が多く投稿されました。2021年の悪夢を思い起こす人も多く、一部では作業員にエアガンを向けるといった過激な行動も報じられています。市民生活の麻痺に対し、州議会からも厳しい声が上がっています。

繰り返される停電と今後の展望

テキサス州では近年、異常気象による大規模停電が頻発しています。2021年の寒波では発電設備の脆弱性が、そして今回の嵐では送配電インフラの弱さが露呈しました。気候変動による自然災害の激甚化が進む中で、電力システムの強靭化(レジリエンス強化)は待ったなしの課題です。

一方で、テキサス州の電力需要は、データセンターの進出や人口増加などにより、2030年までに現在の約2倍に拡大すると予測されています。 6 早ければ2026年夏にも電力不足に陥る可能性が指摘されており、州議会では、電力不足の際に大口の産業ユーザーへの電力供給を制限できる法案も審議されています。 7

しかし、専門家からは、他の州の電力網との連携強化や、省エネの推進といった需要抑制策も同時に進めるべきだという意見も出ています。

誤情報にも注意が必要

大規模な停電が発生すると、誤った情報が広まることがあります。2021年の停電時には、「風力発電のせいで停電した」という情報が流れましたが、実際にはガス火力発電所の停止が主な原因でした。 8 今回の停電でも、「再生可能エネルギーへの依存が原因」といった誤情報が見られましたが、直接の原因は送配電設備の物理的な破損です。州当局やメディアは、こうした誤情報に対して迅速な訂正(ファクトチェック)を行っています。

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