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ロサンゼルス抗議デモ拡大中―トランプ政権と州政府の衝突はどこへ向かう?【6月13日】

ロサンゼルス移民政策への抗議、全米に拡大 – 強硬な連邦政府と市民の対立の行方(2025年6月13日)

2025年6月上旬、米ロサンゼルス市で連邦政府による大規模な移民摘発が行われたことをきっかけに、抗議活動が全米に拡大しています。トランプ政権の強硬な姿勢に対し、市民やカリフォルニア州政府は強く反発しており、事態は緊迫の度を増しています。この記事では、現地レポートを基に、騒乱の経緯から現状、そして今後の見通しまでを分かりやすく解説します。

発端:連邦政府による大規模な移民摘発

2025年6月上旬、ロサンゼルス市内で連邦政府による大規模な移民摘発が実施され、政策を巡る緊張が一気に高まりました。米移民税関捜査局(ICE)の捜査官が市の中心部にあるファッション地区に踏み込み、不法滞在の疑いがある労働者ら数十人を一斉に検挙したのです。

この作戦は、トランプ政権が掲げる「移民取り締まりの強化」の一環として行われました。当時の国土安全保障省(DHS)長官であったクリスティ・ノーム氏は「摘発作戦は今後も続行する。対象者は何千人にも上る」と述べ、治安回復まで強硬姿勢を貫く考えを示しました。 2 この動きは、移民コミュニティや人権団体の間に大きな不安と反発を広げ、抗議の火種となりました。

抗議活動の広がりと特徴

連邦政府の摘発に対し、ロサンゼルスの市民はすぐに行動を開始しました。摘発直後の週末から、移民の権利を訴えるデモが始まり、市役所前や連邦移送センター前には多くの人々が集まりました。

デモ参加者はヒスパニック系住民を中心に、学生、人権活動家、宗教団体、労働組合のメンバーなど、非常に多様です。彼らは「移民への弾圧をやめろ」「家族を引き離すな」といったスローガンを掲げ、政権の強硬策に抗議の声を上げています。

当初は平和的、徐々に規模拡大

抗議活動は当初数百人規模で始まりましたが、SNSなどを通じて呼びかけが拡散。平日夜にはダウンタウンを行進するまでに規模が拡大しました。抗議の雰囲気は、音楽に合わせて踊る参加者が見られるなど、全体としては平和的で明るいものでした。

しかし、一部には過激な参加者もおり、警官隊との口論や投石といった場面も見られました。こうした「荒っぽい派閥」による行動は例外的ですが、活動の盛り上がりと共に緊張感も高まっています。抗議の勢いは増しており、全米規模の抗議運動「No Kings(ノー・キングス)」と連動し、週末にはさらなる大規模デモが計画されています。 4

深まる対立:市・州・連邦政府の三者三様の対応

この事態に対し、ロサンゼルス市、カリフォルニア州、そして連邦政府は、それぞれ異なる立場と対応を見せており、三者の溝は深まっています。

ロサンゼルス市警察(LAPD)と市の対応

ロサンゼルス市警察(LAPD)は、治安維持のために迅速な対応を取りました。カレン・バス市長は「移民を支持すると言いながら街を破壊することは容認できない」と述べ、6月10日から市中心部に夜間外出禁止令(夜8時以降の外出禁止)を発令しました。 7

市警は増援を投入し、騎馬警官や機動隊員がデモの誘導と抑制にあたっています。解散命令に従わず道路を占拠するデモ参加者に対しては、警告の後に逮捕を開始。実際に6月12日夜には、命令に違反した数名が逮捕されました。警察当局は「平和的な抗議は尊重するが、暴力や違法行為は許容しない」という姿勢を繰り返し表明しています。

カリフォルニア州の反発と法的措置

カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は、連邦政府の対応、特に軍の投入に強く反発しています。知事はこれを「政治的な示威行為だ」と非難し、緊急の法的措置に踏み切りました。

6月12日、連邦地方裁判所は、大統領による州兵の動員を「違法かつ州権を侵害する」として、州に指揮権を取り戻すよう命じる一時的禁止命令を出しました。ニューサム知事はこの判断を歓迎しましたが、連邦政府が直ちに控訴。控訴裁判所がこの命令の効力を一時停止し、審理が6月17日に予定されるなど、法廷闘争は続いています。 14

トランプ政権の強硬姿勢と軍の投入

一方、トランプ政権は極めて厳しい姿勢で臨んでいます。トランプ大統領は「もし軍をロサンゼルスに送らなければ、今ごろ街は燃え盛っていただろう」と述べ、軍事措置の正当性を強調しました。

大統領は約4,000人の州兵と700人規模の海兵隊員をロサンゼルスに派遣するよう命令。これは、連邦軍が国内の都市の騒乱対応に投入される極めて異例の事態です。ホワイトハウスは「大統領には治安維持のための権限がある」と主張し、強硬策を正当化しています。

さらに、国土安全保障省のノーム長官もロサンゼルスでの強硬措置を全米に拡大させる可能性を示唆。また、同長官の記者会見で抗議の声を上げたカリフォルニア州選出のアレックス・パディーヤ上院議員が一時拘束されるなど、連邦政府と地元政治家の対立も先鋭化しています。

被害の状況:ロサンゼルスと全米各都市

2025年6月中旬現在、ロサンゼルス市内での抗議活動による大規模な人的被害は報告されていません。しかし、一部で逮捕者や物的な被害が発生しており、抗議活動が広がる他の都市では、より深刻な事態も起きています。

ロサンゼルス市内の状況

幸いなことに、ロサンゼルスではデモ隊と警官隊の双方に深刻な負傷者は確認されていません。逮捕者は累計で数十人規模に上るとみられますが、その多くは夜間外出禁止令違反や道路占拠といった非暴力的な行為によるものです。

物的被害としては、市庁舎周辺の建物への落書きや、ゴミ箱への放火未遂、商店の窓ガラスが割られるといったケースが報告されています。しかし、被害はダウンタウン中心部のごく一部に限られており、「街全体が破壊されている」という状況にはありません。

全米各都市の抗議活動と被害

ロサンゼルスに端を発した抗議は全米に広がり、場所によってその様相は異なります。全米ではこの一週間で少なくとも数百人規模の逮捕者が出ています。

ラスベガス (ネバダ州)
6月11日夜、一部の参加者が警官に瓶や石を投げるなど騒乱状態に。警察は催涙ガスやゴム弾を使用し、94人を逮捕、警官4名が負傷しました。
シアトル (ワシントン州)
6月11日、一部の抗議者がゴミ箱に火を付け、連邦ビルの窓ガラスに落書きを行いました。警官隊とデモ隊が衝突し、数十名が拘束されました。
スポケーン (ワシントン州)
6月11日、抗議が過激化したため市長が夜間外出禁止令を発令。抵抗した一部に対し、警察がペッパーボール弾(唐辛子成分を含んだ弾)を発射し、30名以上を逮捕しました。
シカゴ (イリノイ州)
6月12日、数百人規模のデモが行進しましたが、主催者側の警備もあり、大きな衝突や逮捕者は出ていません。
サンアントニオ (テキサス州)
6月12日、州兵が展開する中でデモが行われましたが、終始ほぼ平穏に終了しました。

市民の反応とメディアの論調

今回の事態について、ロサンゼルスの市民やメディアはどのように受け止めているのでしょうか。

分かれる市民感情と当局者の声

ロサンゼルス市民の反応は、概ね連邦政府の強硬策に批判的で、多くの人々が抗議活動に理解を示しています。移民コミュニティでは不安が広がる一方、支援団体などが家族支援や法律相談会を開催する動きも活発化しています。

街頭では「この国は移民抜きには成り立たない」「軍隊を投入するほどの事態とは思えない」といった声が聞かれます。一方で、「不法移民の摘発は当然だ」「デモが治安を乱すのは許せない」といった、少数ながら連邦政府を支持する意見も見られます。

主要メディアの報道姿勢とデマの拡散

主要メディアの論調も、おおむねトランプ政権の対応に懐疑的・批判的なものが目立ちます。『ロサンゼルス・タイムズ』紙は社説で「ロサンゼルスは戦場ではない」と断じ、軍事的手段に頼る政権を非難しました。リベラル系のテレビ局はデモ参加者の声を詳しく報じる一方、保守系の『Foxニュース』は「一部暴徒化したデモ」を強調し、厳格な対応を支持しています。

また、SNSでは「デモ参加者は日当を受け取っている」といったデマ情報も拡散しましたが、ファクトチェック機関によって即座に否定されています。

今後の見通し:膠着状態は打開されるか

2025年6月半ばの時点で、ロサンゼルスの抗議活動は沈静化していません。トランプ政権の強硬な態度と、それに反発する市民運動により、事態は膠着状態にあります。夜間のデモは数百人規模で続いており、大規模な暴徒化こそ避けられているものの、予断を許さない状況です。

鍵を握る週末の全国抗議と司法の判断

今後の鍵を握るのは、6月14日に予定されている全米規模の抗議行動です。この日はトランプ大統領の誕生日にあたり、ワシントンD.C.では軍事パレードが計画されています。これに合わせ、「No Kings」と銘打った全国的な抗議行動が呼びかけられており、主催者側は「史上最大規模の抗議になる」と予測しています。

この大規模行動が平和的に行われるかどうかが、事態沈静化への一つの分かれ道となりそうです。大統領は抗議者に対し「非常に大きな力によって迎え撃つ」と警告しており、緊張が高まっています。

もう一つの焦点は、カリフォルニア州と連邦政府の間で争われている州兵の指揮権を巡る司法判断です。6月17日に予定されている控訴審の結果次第では、連邦軍が撤収に向かう可能性も、逆に対立がさらに激化する可能性も孕んでいます。

専門家からは、現政権の対応が事態を悪化させているとの指摘も出ています。元国土安全保障次官補のジュリエット・カイエム氏は、ホワイトハウスが本来果たすべきは地元当局との協調による沈静化策であり、「現政権はまったく逆のことをしている」と苦言を呈しました。

まとめ

ロサンゼルスで始まった移民政策への抗議は、今や米国社会が抱える分断を象徴する出来事となっています。抗議活動は続いているものの、最悪の事態は避けられています。しかし、連邦政府と州・市政府の溝は深く、根本的な解決は見通せません。

週末に予定される全米規模の抗議行動と、司法の判断が今後の大きな転換点となる可能性があります。移民の人権と法の支配をどう両立させるか――ロサンゼルス発のこの問題は、アメリカ全体にとっての大きな試練であり、その行方が世界中から注目されています。


参考文献:引用文献

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