米国ミネソタ州で州議会議員を狙った計画的な襲撃・殺害事件が発生【6月14日】

ミネソタ州議員襲撃事件の詳報：民主主義を揺るがす政治的暴力、逃走中の容疑者と捜査の行方

2025年6月14日未明、米国ミネソタ州で州議会議員を狙った計画的な襲撃事件が発生し、州政界に衝撃が走っています。この事件では、元州下院議長のメリッサ・ホートマン氏とその夫が殺害され、別の州上院議員夫妻が重傷を負いました。警察官を装った容疑者は現在も逃走中で、FBIも加わった大規模な捜査が続いています。政治的動機による国内テロの可能性が指摘される中、事件の背景と最新の捜査状況を詳報します。

事件の概要
犠牲となったメリッサ・ホートマン州下院議員夫妻
負傷したジョン・ホフマン州上院議員夫妻の状況
容疑者ヴァンス・ルーサー・ボールターの人物像と捜査状況
犯行の手口と使用された装備
当局の捜査と対応
政治的背景と事件が及ぼす影響
関係者の声明と反応
参考文献：引用文献

事件の概要

事件が発生したのは、ミネソタ州ミネアポリス近郊です。武装した犯人が2か所の州議員宅を相次いで襲撃しました。この襲撃により、州下院議員のメリッサ・ホートマン氏（55）と夫のマーク・ホートマン氏（58）が自宅で射殺されました。 ¹

また、約5マイル（約8km）離れた別の自宅では、州上院議員のジョン・ホフマン氏（60）と妻のイベット・ホフマンさんが銃撃され重傷を負いましたが、一命は取り留めています。 ² 犯人は警察官を装って議員宅を訪問し、玄関先で発砲したとみられています。ティム・ワルズ州知事は「政治的動機による暗殺事件」との見方を示しており、捜査当局はこの事件を「標的型の政治的暴力」と位置づけています。 ³ ⁴

犠牲となったメリッサ・ホートマン州下院議員夫妻

犠牲となったメリッサ・ホートマン氏は、与党である民主農民労働党（DFL）に所属し、2023年まで州下院議長を務めた州政界の重鎮でした。 ⁵

彼女は、全児童への無料給食提供や人工妊娠中絶の権利保護、環境法の制定など、数々の進歩的な法案を成立させた立役者として知られています。同僚議員からは「ミネソタ史上最も影響力のある下院議長」と評され、その卓越した指導力とウィットに富んだ人柄で尊敬を集めていました。夫のマークさん（58）もこの事件の犠牲となりました。ワルズ知事は「州は偉大な指導者を失った」と哀悼の意を表し、州庁舎に半旗を掲げるよう命じています。

負傷したジョン・ホフマン州上院議員夫妻の状況

銃撃で負傷したジョン・ホフマン州上院議員（DFL所属、60歳）と妻のイベットさんも、自宅で複数回撃たれましたが、手術を経て容体は安定し、回復に向かっています。 ⁶ 親族によると、イベットさんは銃撃された際に咄嗟に娘さんをかばい、娘さんは無事だったということです。

ホフマン議員は、障がいを持つ自身の娘の医療保険問題に取り組んだ経験から政治家を志し、2013年から上院議員を務めてきました。温厚な人柄で知られ、超党派で回復を望む声が上がっています。

容疑者ヴァンス・ルーサー・ボールターの人物像と捜査状況

ミネソタ州当局が公開した容疑者の防犯カメラ画像。カウボーイハットをかぶった姿で現場近くの商業施設に写っていました。

容疑者の人物像

当局は、この事件の容疑者をヴァンス・ルーサー・ボールター（57）と特定し、大規模な捜索を行っています。 ⁷ 容疑者はミネソタ州グリーンアイル在住で、武装警備会社の最高経営責任者（CEO）を務めていました。会社の宣伝では「警察と同型の車両を使用し、防護装備に身を固めた警備」を売りにしており、自身の職務を通じて警察さながらの装備を整えていた可能性があります。

旧知の友人の証言によると、容疑者は敬虔なキリスト教徒で、以前から人工妊娠中絶に強い嫌悪感を抱き、「中絶は殺人だ」と公言していたということです。

「犯行声明文」と政治的動機

捜査当局は、容疑者の車両から押収した文書を「犯行声明文（マニフェスト）」とみて分析を進めています。この文書には、ホートマン、ホフマン両議員を含む、他の政治家や関係者数十名の名前がリストアップされていました。リストに含まれていたのは、主に「ミネソタ州内外の著名な中絶権擁護派」だったことが捜査筋の情報で明らかになっています。 ⁸

また、車内からは「ノー・キングス（No Kings）デー」と呼ばれる反トランプ抗議デモのビラも発見されており、当初はデモ参加者への襲撃も計画していた可能性が指摘されています。州犯罪捜査局長は、現時点では動機を断定できないとしながらも、「政治的背景があることは示唆されている」と述べています。

犯行の手口と使用された装備

警察官を装った巧妙な手口

警察の発表によると、容疑者は本物の警官を完璧に装うという、周到な準備をして犯行に及んでいました。使用された車両は白黒のSUVで、屋根には警光灯が装着され、ナンバープレートには「POLICE」の文字が掲げられていました。容疑者は黒い防弾ベストに警察バッジらしきものを付け、スタンガンや拳銃などを装備しており、一見しただけでは現職の警察官と見分けがつかない姿だったとされています。

二つの襲撃の時間差と発覚の経緯

最初の襲撃は午前2時ごろ、ホフマン議員宅で発生しました。夫妻は玄関先で至近距離から複数回撃たれています。
その後、ホフマン邸の事件を受けて近隣議員宅の見回りを開始していた警官らが、午前3時35分ごろにホートマン議員宅で容疑者と遭遇しました。家の前にパトカーそっくりのSUVが停まり、警官の制服を着た人物が出てきたため、警官らが声をかけると、その人物は突然発砲し、銃撃戦となりました。容疑者は発砲しながら闇に逃走しました。

警官隊が家に入ると、メリッサ・ホートマン氏はすでに死亡しており、夫のマーク氏も搬送先の病院で死亡が確認されました。

当局の捜査と対応

大規模な捜索活動と報奨金

事件発生を受け、地元警察に加え、州捜査局（BCA）や連邦捜査局（FBI）が合同で大規模な捜査態勢を敷いています。FBIはボールター容疑者を最重要指名手配犯リストに加え、逮捕につながる情報提供者に最高5万ドル（約780万円）の報奨金を支払うと発表しました。 ⁹

警察は容疑者が「武装した非常に危険な状態」で逃走中とみており、目撃しても決して接触せず、直ちに通報するよう市民に呼びかけています。

広域手配と関係先の捜査

捜査は州境を越えて広域に展開されています。隣接するサウスダコタ州の当局には、容疑者が使用したとされる車両への警戒通達（BOLO: 要注意人物手配）が出されました。また、空路での逃亡も視野に、米国運輸保安局（TSA）にも情報が共有されています。容疑者の自宅や関係先への家宅捜索も行われ、物証の収集が進められています。

他の議員への安全対策

州政府は、犯行リストに名前が挙がっていた他の要人に対し、直接警告と安全対策の指示を行いました。事件当日、ミネソタ州議会の議員らには一斉に警察から連絡が入り、自宅の戸締まり強化などが呼びかけられました。また、警察は「正規の警官は必ず2人以上で訪問する」と周知し、住民にも注意を促しています。

政治的背景と事件が及ぼす影響

この襲撃は、ミネソタ州史上前例のない州議会議員に対する暗殺テロと位置づけられています。 ¹⁰ 近年、米国では政治的分断の深化を背景に、公職者への脅迫や暴力事件が急増しており、今回の事件もその流れの中で発生したとみられています。

専門家は、2021年の連邦議会襲撃事件以降だけでも、全米で300件以上の政治的暴力事件が記録されていると指摘します。今回の事件も、政治的・宗教的な過激思想に基づく国内テロの様相を帯びており、政治的立場の違いを暴力で解決しようとする風潮に、多くの識者が警鐘を鳴らしています。

関係者の声明と反応

事件後、州内外の指導者から相次いで声明が出されています。

ティム・ワルズ州知事は記者会見で声を詰まらせ、「今日はミネソタ州が偉大な指導者を失った日だ。私の大切な友人でもあった」と述べ、暴力ではなく平和的な対話の重要性を訴えました。
エイミー・クロブシャー上院議員（ミネソタ州選出）は、「このような蛮行は民主主義への攻撃そのものだ」と非難し、ホートマン氏の功績を称えました。
銃撃事件の被害経験を持つガブリエル・ギフォーズ元下院議員もSNSで、「公職者への攻撃は米国の民主主義そのものへの攻撃だ」と訴えました。
ドナルド・トランプ米大統領も声明を発表し、「このような恐ろしい暴力行為はアメリカ合衆国では決して許されない」と述べ、連邦政府として徹底的に捜査する姿勢を示しました。

党派を超えて暴力行為を非難する声が上がっており、地域社会からも追悼と回復を祈る声が広がっています。警察は依然として逃走中の容疑者の行方を追っており、住民に注意を呼びかけています。