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(2025年5月時点)『パルワールド』特許訴訟について各方面からの見解【任天堂・ポケモン社 vs ポケットペア】

任天堂・ポケモン社 vs ポケットペア『パルワールド』特許訴訟:その真相とゲーム業界への影響(2025年5月時点での各方面からの見解)

2024年9月、日本の大手ゲーム会社である任天堂株式会社および株式会社ポケモンが、新興ゲーム開発会社ポケットペアの『パルワールド』に対し、特許権侵害を理由に法的措置を取ったというニュースがゲーム業界を駆け巡りました。この訴訟は、ゲームのアイデアや遊び方そのものが法的に保護されるのかという点で、大きな注目を集めています。本記事では、この訴訟が事実なのか、どのような特許が問題とされているのか、そしてこの訴訟がゲーム業界全体にどのような影響を与える可能性があるのかについて、最新情報を基に検証します。

任天堂・ポケモン社による特許侵害訴訟?

任天堂およびポケモン社が、ポケットペアの『パルワールド』に対し、特許権侵害を理由として東京地方裁判所に訴訟を提起したという情報は事実です。 この提訴は2024年9月18日付で行われており、訴状では『パルワールド』が複数の特許権を侵害していると主張されています。 2 このニュースは、ロイター通信など海外の大手メディアでも報じられており 3、任天堂も公式な英文プレスリリースを発表しています。したがって、これは単なる噂や憶測ではなく、実際に進行中の法的手続きです。

訴訟の内容:問題とされている特許とは?

任天堂・ポケモン社側が主張している特許侵害の内容は、主に『ポケットモンスター』(ポケモン)シリーズのゲームで採用されている、ゲームプレイ上の特定の「仕組み」に関するものです。具体的には、以下の日本で登録された3件の特許が問題とされています。 7

  • 特許7545191号: フィールド上でキャラクター(モンスター)に向かってボール状のアイテムを投げる動作に関する発明(ポケモンの「モンスターボールを投げて捕獲する」という基本的な動作に類似)。
  • 特許7493117号: ボールを投げる際の照準(エイミング)システムや、捕獲成功率の表示など、捕獲時のユーザーインターフェース(UI)や挙動に関する発明。
  • 特許7528390号: 捕獲したキャラクターにプレイヤーが騎乗(ライド)して移動するゲーム機能に関する発明。

任天堂側は、『パルワールド』において「パルスフィア」と呼ばれる道具を投げて「パル」という生物を捕獲・召喚する要素や、捕まえたパルに乗って移動したり滑空したりする要素が、これらの特許技術に酷似しており、権利を侵害していると主張しています。 6

訴訟において、任天堂とポケモン社は『パルワールド』の開発・配信の差し止め(販売停止)と、損害賠償を求めています。損害賠償請求額については、両社それぞれ500万円(合計約1,000万円)と報じられており、ゲーム業界の大型訴訟としては比較的小規模です。これは、賠償金額よりも、侵害行為そのものを停止させること(つまりゲームの販売差止め)に主眼を置いているためと考えられます。 10

『パルワールド』に登場する生物「パル」。そのデザインやコンセプトが「ポケモン」に似ているとの評価もありますが、今回の訴訟で直接争われているのはキャラクターのビジュアルではなく、ゲームプレイ上の特許要素です。

提訴に至る経緯と背景

今回の特許訴訟の背景には、『パルワールド』の異例とも言える大ヒットと、それに伴いリリース当初から巻き起こっていた「ポケモンのアイデアを流用しているのではないか」という広範な議論があります。

『パルワールド』は2024年1月にリリースされたオープンワールド型のサバイバルアドベンチャーゲームです。可愛らしい生物「パル」を捕まえて育成するという、ポケモンを彷彿とさせる要素に加え、銃火器を用いて戦闘や捕獲を行うというユニークな組み合わせが特徴です。その奇抜さから、リリース前からSNSやメディアで「銃を持ったポケモン(Pokémon with guns)」などと揶揄されつつも大きな注目を集め、実際にリリースされるとSteamなどのプラットフォームで爆発的な人気を博しました。 14 報道によれば、発売からわずか1ヶ月で約1200万本という驚異的な売上を達成したとされています。

こうした状況を受け、株式会社ポケモンは2024年1月の時点で、「『パルワールド』が当社の知的財産(IP)を盗用しているとの主張について調査し、必要な対応を取る」との考えを公式に示していました。つまり、任天堂・ポケモン社側はゲームの発売直後からこの問題を注視し、法的な措置も視野に入れて検討を進めていたことがうかがえます。また、ポケットペア社が2024年7月にソニーグループとの提携を発表し、『パルワールド』の国際的なライセンス展開を進める動きを見せていたことも、任天堂側の警戒感を高めた可能性があります。

任天堂は従来から自社のIP保護に非常に積極的な企業として知られていますが、これまでは主に著作権や商標権に基づく措置(例えば、ファンが作成した二次創作ゲームへのDMCAテイクダウン通知や、海賊版ROMサイトへの提訴など)が多く、ゲームプレイの「仕組み」そのものに関する特許を根拠に他社を訴えるのは、比較的異例のケースと言えます。

ポケットペア側の反応と法的対応戦略

訴訟を提起されたポケットペア側は、直後から公式声明を出し、毅然とした姿勢で対応する構えを見せています。2024年9月の提訴時点で、「どの特許を侵害したと主張されているのか現時点では知らされていない」としつつも、「然るべき法的手続きを取って主張に対応していく」と表明しました。

その後、ポケットペアは具体的な防衛戦略として、任天堂側が主張する特許の「無効性」を主張しているとみられています。日本の特許訴訟では、被告側が特許無効審判を特許庁に請求したり、裁判の中で特許自体の有効性に疑義を呈したりすることが一般的です。さらに、海外(特に米国)で同様の特許が成立しないよう先手を打つ動きや、他の既存ゲーム(例えば『ゼルダの伝説』や『ARK: Survival Evolved』など)にも類似のゲーム要素が存在することを指摘し、「任天堂の特許は新規性や進歩性に欠けるため無効である」と主張する戦略を取っているようです。 28

加えて、ポケットペアは訴訟係属中であっても『パルワールド』の開発・運営を継続する方針を明確にしています。しかし、訴訟の影響と見られるゲーム内容の変更も行われています。2024年11月末のアップデートでは、パルを召喚する際にプレイヤーがパルスフィアを投げるアニメーションを廃止し、プレイヤーの隣に即座に出現する方式に変更しました。 8 これは明らかに任天堂側の特許(ボールを投げて捕獲/召喚)を意識した対策と考えられます。同様に、2025年5月のアップデートでは、パルに掴まって滑空できる機能を削除し、プレイヤー専用のグライダーアイテムを使用する方式に変更しました。これも特許(キャラクターへの騎乗要素)を考慮した「妥協策」であるとポケットペア自身が説明しており、「開発・配信の継続に支障が出ることを避けるため必要な変更だった」と述べています。 29

ポケットペアは、「特許侵害の主張は事実無根として徹底的に争うが、訴訟が長引く間にゲーム運営が停止することのないよう、問題視された機能の変更といった対応策も並行して講じる」という戦略を取っていると言えます。この方針により、現時点でも『パルワールド』は全世界で3200万人以上のプレイヤー数を抱える人気を維持しています。 35

現在の訴訟の進捗状況

2025年6月現在、本件訴訟は日本の東京地方裁判所で継続中です。提訴から9ヶ月ほどが経過しましたが、判決や和解に至るまでには「数か月から数年規模」の長期戦になることが予想されています。現時点で、裁判所が『パルワールド』の配信即時停止を命じる仮処分を認めた形跡はありません。これは、ポケットペア側が問題視された機能を修正したことも影響している可能性があります。

一方、任天堂・ポケモン社側は、日本国外でもこの問題に対処するための布石を打っています。報道によれば、任天堂は米国特許商標庁(USPTO)で関連するゲームプレイ特許を相次いで出願・取得しており、これにより米国でもポケットペアを相手取った特許訴訟を起こす可能性が高まっていると示唆されています。 5

国際メディアや専門家による評価・見解

この訴訟は、「ゲームの遊び方(ゲームメカニクス)に関する特許訴訟」という珍しさと、「大手IPホルダーがインディー開発者を相手にした訴訟」という構図から、海外のゲームメディアや法律専門家の間でも大きな話題となっています。

多くの報道が指摘するのは、本件の異例さです。ゲーム業界ではアイデアの類似性は日常茶飯事であり、これまで明確な法的線引きが難しいグレーゾーンとされてきました。しかし、任天堂が「ゲームのルールやシステムも特許で保護しうる」という姿勢を明確に示したことで、今後同様の訴訟が増える可能性や、ゲーム開発者が開発前に他社の特許に抵触していないかを確認する「特許クリアランス」の重要性が高まるのではないかと議論されています。 23

一方で、法律家やコメンテーターの中には、「任天堂が主張する特許は本当に法的に有効なのか」と疑問視する声もあります。例えば、キャラクターに騎乗するという概念自体は古くから多くのゲームに存在するありふれた要素であり、「これを独占できるほどの特許的な進歩性があったのか」という批判です。 42 このように、ゲームの特許がイノベーションを阻害するのではないかとの懸念は根強く、仮に任天堂が全面的に勝訴すれば、「今後、多くのゲームで当たり前に使われている要素にまで特許権侵害のリスクが生じるのではないか」との議論も起きています。

他方、任天堂側を支持する論調としては、「『パルワールド』は明らかにポケモンの人気に便乗した作品であり、これを野放しにすれば、独自のIPを長年かけて育ててきた企業の創造的な努力が報われない」という見解もあります。キャラクターデザインの類似性だけでなく、ゲームの根幹システムまで模倣しているのであれば、法的な対応は当然だとの指摘です。

総じて、本件訴訟の業界的意義は、「ゲームにおけるインスピレーションと模倣の境界線を巡る重要なテストケース」になる可能性がある点です。任天堂・ポケモン社が勝訴すれば、大手企業は自社のゲームシステムを特許でより広範に保護し、中小開発者に対して強い交渉力を持つ前例となり得ます。逆にポケットペア側が特許の無効化や非侵害を勝ち取れば、既存の人気ゲームに類似した作品でも一定の範囲で許容されることが示され、クローンゲームやファンによる二次創作活動に対する過度な萎縮効果を防ぐことに繋がるかもしれません。どちらに転んだとしても、この訴訟の判決は、今後のゲーム業界全体のIP(知的財産)戦略に大きな影響を与えるものと予想されています。

現段階(2025年6月)では判決はまだ先ですが、任天堂・ポケモン社 対 ポケットペア『パルワールド』の特許権侵害訴訟は、その存在自体が確固たる事実であり、今後の推移次第でゲーム業界の知的財産に関するルール形成に一石を投じる重要な案件として、引き続き注目していく必要があるでしょう。

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